「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第3話

 

米中の「新時代の大国関係」に左右される北朝鮮問題とアジア諸国が懸念する中国の領海侵犯

 

◎「新時代の大国関係」の裏には「中国の夢」という思惑が存在

 先月カリフォルニアで行われた米中首脳会談で習近平国家主席が打ち出した「新時代の大国関係」という概念についてアメリカがどのように思っているのかが、北朝鮮問題の今後を見据えるための指針となるだろう。中国側の概念規定については「中国の夢」と関連したものである事は分析した(本連載2013年6月号参照)。

今回の首脳会談について中国のメディアが強調したのは「太平洋をまたぐ米中協力」というプロパガンダであり、ここには米中二大強国が太平洋を分割統治するというニュアンスが含まれている。事実、首脳会談で習主席は「太平洋には両国を受け入れる十分な空間がある」という表現で発言していた。習主席は2012年2月、国家副主席として訪米した際のバイデン副大統領、今年4月に訪中したケリー米国務長官との会談でも同様の発言を繰り返しているのだ。この発言の源は確認できた限りでは中国軍の発想であった。

2008年3月の米議会上院軍事委員会公聴会で米太平洋軍のキーティング司令官(海軍大将)が明らかにした所によると、2007年5月に初訪中した際、中国海軍高官が「太平洋を分割して米国がハワイ以東を、中国が同以西を管理してはどうか」と持ちかけて来たと言う。環太平洋地域には米中両国の他日本、フィリピン、オーストラリア、カナダ、メキシコ、ロシアやパラオ等の島嶼国を含めて様々な国々がある。米中だけで縄張りを張って分け合おうという発想自体がファンタジーであり、中国の「夢」以外の何物でもない。その含意は中国には韓国、日本、沖縄、台湾、フィリピンと続く第一列島戦を突破して勢力範囲を太平洋に広げたいという野心がある。米国はこれまでのように封じ込めをするな…という事である。 習主席が繰り返し述べているのは、19世紀から20世紀初頭にかけて列強や日本の侵略を受け、中共建国後朝鮮戦争で米軍と戦い、冷戦で米国と対峙した中国にとって米国と対等に渡り合う事はまさに中華民族の復興を象徴する成果と捉えた上での発言であり、中国近代化の歴史の中で醸成されて来た中国人のコンプレックスとおごりがないまぜとなって出て来た結果であろう。

 

◎米が懸念する中国の一党独裁による弊害と経済成長の鈍化

 報道によれば、オバマ大統領は習主席の言う「新時代の大国関係」に一応賛同した事になっている。米国から見ればこの主張は日米、米韓同盟を始めとする環太平洋諸国との関係を無視した、あくまでも抽象論のレベルの話であって、この様な抽象的なスローガンに賛同してもしなくても別に国益に触るような事は一つもない。言ってみればオバマ大統領は当たり障りの無い新大国関係構築に賛同した事で習主席に花を持たせたというところだろう。

従って米国の認識の基本は大国中国を国際社会に関与させて建設的な役割を果たさせるという事であり、決して中国の規定する「大国関係」や核心的利益をそのまま認めるという事にはならないのである。米国の目から見て、中国は多くの問題を抱えた国だ。共産党の一党独裁で政治的自由や基本的人権、法の支配といった民主主義的価値が尊重されていない。この様な構造的な問題が大きな原因となって、経済の停滞が深刻化し、4―6月期のGDPの伸び率が前年同期比7.5%と2四半期連続で伸び率が鈍っている。一時期DGP成長率8%が最低限度とされていたが現在では目標が7%に引き下げられている(本連載2013年4月号参照)。圧倒的に大きな所得格差がある中国では分配政策が困難となり、社会的混乱が起きる可能性が非常に高くなっている。このまま事態が進行すれば、「大国」の夢が文字通り夢で終わってしまいかねない。大国中国を国際社会に関与させて建設的な役割を果たさせるためには、米国は明確な目的意識を持って対アジア政策を実行すべきである。しかしながら、その実態は甚だ心もとないものとなっているのだ。

 

◎アジア諸国が求めるのは米の具体的な軍事・防衛政策

 7月1日、新国務長官となったケリー氏がブルネイ入りし、ASEAN外相会議に出席。ここであらためてオバマ政権のアジア重視策を強調、米国が「アジア太平洋国家」として関与し続けると述べた。が、問題はその政策の具体的な中身である。中国の台頭と北朝鮮問題無しには米国がアジアに軸足を移動させる理由はないはずだ。現状では米国政府は北朝鮮の攻撃的行動を押さえられていないし、中国の尖閣諸島に対する執拗な領海侵犯行為と国際法違反の行動の数々に対処する方策は何も採られていない。ASEAN諸国にとっても南シナ海における中国の軍事行動抑止が喫緊の課題である。米国のアジア重視政策は歓迎すべきことではあるが、アジア諸国が今最も米国に求めているのは具体的な軍事・防衛政策である。

しかしながら、オバマ政権はアジアへの軸足移動を言いつつも軍事予算を削減し、米国の役割を増加する具体策をほとんど示してはいないのだ。オーストラリアに2500人の海兵隊員を派遣する事、シンガポールに戦闘艦を一時的に入港させる事、米海軍の60%をアジアにおく事(但しその大部分はすでにアジアにいる)以外には米国のアジア政策の変化を示すものは何もないのだ。この現状からすれば、オバマ政権のアジア政策が中国の封じ込めなのか、海洋紛争には影響を与えるが、介入はしないのか(米国は公海の自由を主張しつつも海洋紛争関与を避けている)、北朝鮮に対しても軍事力を背景にした強い警告を発するのか…アジアの同盟国に安全を保証するのなら、中国と北朝鮮に対する何らかの抑止は必要であろう。

先の米中による太平洋分割論に見られるように、中国のいう大国とは「力」による「支配」を原点としている。従って、中国に国際社会の法と秩序の中でそれ相当の役割を果たさせるためには、米国が大国としての「力」を中国に示して行くことが必要である。が、現状ではオバマ政権がアジアに対してどのようなコミットメントをし、安全保障環境を作って行くのかほとんど説明がない。

 

◎朝鮮半島有事に欠かせない日本国内の基地・病院

 この様に意図と意思が明確でない米国のアジア関与が北朝鮮問題解決プロセスに於いて中国にイニシアティブ握られ、彼らの意のままに転がされる結果となっているのだ。この点を巧みについているのが最近の韓国行動であろう。言うまでもなく、米韓軍事同盟と日米安保条約は北朝鮮からの軍事攻撃に備えたものである。朝鮮半島有事の際には日本はその兵站基地であり、出撃基地としての役割を果たす事になっている。

具体的には航空自衛隊は福岡県の築城と芦屋、山口県の防府北の3か所に2000メートル級の滑走路を置き、海上自衛隊の大村(長崎)、陸上自衛隊の目達原(佐賀)、高遊原(熊本)、在日米空軍が使う板付基地(福岡空港)と合わせれば北部九州に7か所もの航空機発着基地が存在している。半島で戦闘が起きた場合、米軍の戦闘機や輸送機が発着する拠点として活用されるのはもとより、韓国人を含む避難民の受け入れ基地としても活用される。更には福岡病院、大分・別府病院、長崎・佐世保病院、熊本病院という4つの自衛隊病院が集中している。これも韓国防衛のために傷ついた兵士らの治療を前提とされているものだ。この他、朝鮮半島と向き合う長崎県佐世保基地は米海軍第7艦隊の戦略拠点であり、広大な佐世保湾の大半は半島有事に緊急展開する米軍が占領したままだ。軍事的な観点に立つ限り、韓国に対して日本の役割は極めて重要であり、韓国防衛を担う在韓米軍にとっても必要不可欠な存在となっているのだ。

にもかかわらず、6月27日、韓国の朴大統領がこれまでの慣例を破って日本を飛び越し、中国を訪問、習近平主席と会談した。両首脳は中韓の結束ぶりをアピールし、露骨な日本はずしを露わにしたのである。この意図については様々な形でメディアが解説しているが、その背景にはオバマ政権の北朝鮮を巡るアジア政策に明確な意思表示がなされていない事にあると言えよう。次回は急速に動き始めた韓国の意図について分析してみたい。

 

<<バックナンバー>>
2013/6 北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第2話
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