「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第4話

 

韓国が中国寄りの外交方針に変化せざる得ない本当の理由

 

◎竹島と共に韓国が実効支配した離於島の歴史的経緯

1952年1月18日、李承晩ラインが引かれた時日本領である竹島が強引に韓国領とされた事はよく知られている。しかし、この時期李ラインに取り込まれ、強引に韓国領とされたもう一つの島がある事は日本ではあまり知られていない。現在でも韓国領として実効支配下にある韓国名「離於島」がそれである。島という名がついてはいるが、実際には海面下にある岩礁だ。長崎県の鳥島から北西276キロ、韓国・馬羅島の西149キロ、中国の海礁島沖合245キロに位置し、1987年には韓国政府が灯台を設置、韓国内のナショナリズムが高揚したノムヒョン政権下の2003年に海洋科学基地が建造された。この基地は水面から36メートル、水面下は40メートル、計76メートルに及ぶ巨大建造物である。

韓国がこの岩礁に領有権を主張し始めた1950年代は中共政府と韓国の間には国交はなく、中国の海軍力も微々たるものでしかなかった。当時韓国と国交があった台湾の中華民国政府(当時中華民国政府が正式な中国政府とされていたので韓国に対して領有権の主張が可能であった)もまた、冷戦下における西側陣営に属するものとして国際法上の島でもない暗礁を巡って対立する余裕がなかった。機に乗じて味方陣営の領土をかすめ取って行く経緯は、1952年サンフランシスコ講和条約締結で日本が主権を回復した直後、まだ自衛隊が発足していない時期に竹島を占領したのと酷似している。当時、韓国は独立直後のナショナリズムが高揚した時期であり、韓国政府は朝鮮戦争下特有の国際情勢を利用して当時としてはほとんど利用価値の無い辺境の地を領有する事でまるで火遊びの様な国内向けのパフォーマンスを行っていたのである。

当然の事ながら、中国は韓国の行動に対して抗議を行い、領有権は認めないとしてきた。韓国にとって離於島が問題となって来たのが、北東アジアのパワー・バランスが大きく変化し始めた事である。第一に中国海軍が急速に増強され、北朝鮮の脅威を前提に陸軍中心の軍備を推進してきた韓国の海軍力は中国海軍と比較して相対的に弱体化している。加えて、尖閣諸島を巡る日中の対立が韓国にとっての脅威となって来た。とりわけ、深刻なのは日本に対する中国の姿勢が予想をはるかに上回る強硬さを見せた事である。依然として世界有数の海上警備力を持つ日本でさえ、中国艦船の度重なる領海侵犯が強い圧力となり、懸命な対処を強いられているのが実情である。もし離於島が同じ状況に直面した場合、韓国には日本と同じように自力で圧力に対処し得る海軍力も、経済的余力も最早存在していない。

 

韓国の中国傾斜は米国の北東アジア戦略に起因

事実、2012年10月20日、中国が無人機を活用して黄海の自国領海への監視を強化し、遼寧省内に基地2か所を建設すると発表(2012年10月22日付韓国紙中央日報日本語版)、更に圧力を増す姿勢を強めているのだ。その現実を前にした韓国の動揺は尋常ではない。これを機に離於島を管轄下に置いている済州島議会は島根県議会の「竹島の日」制定に伴う形で「離於島の日」を制定する議論を中止してしまった。この際頼みとなるのは米軍の存在であるが、先月号でのべたように、米国のアジアシフト政策と言ってもほとんど現状維持であり(本誌連載2013年7月号参照)、北東アジアにおける領土問題について米国は中立的な立場にある。従って国際法上の島でさえない暗礁を守るために米国が韓国の側に立って中国相手に軍事力を発動することはあり得ない。これらの事からすれば、離於島問題は韓国にとっては今や危険なステージに入り込んでしまったという事になる。この状況を打破する一つの有力な手段は、韓国内では反日ムードを高めて、「中韓共通の敵国しての日本」を想定する事で、中国に接近するという手である。

朴大統領になって一層の反日を煽り立て、中国にすり寄り始めた韓国の態度について、日本のメディアでは中国経済との関係に於いての解説が主流である。例えば、韓国の貿易総量に占める中韓の比率は21%を超え、韓国のGDP対しても20%以上に達している。この状況一つとっても韓国は中国にすり寄らざるを得ない…等々である。この様な経済的側面も中韓接近の重要な要因ではあるが、この視点だけからすれば、北朝鮮問題解決についての重要なファクターを見失う事になりかねない。韓国にとって北朝鮮はあくまでも軍事的な脅威であり、それにもう一つの軍事的脅威として離於島を巡る問題が加わって来たという、パワー・バランスの変化も極めて切実な要因なのである。韓国としてはこれを取り除く手立てとして、全面的に中国にすり寄り、中国の力を借りて北の脅威を取り除き、同時に離於島問題を緩和するという方向に舵を切ったと見る視点を持つべきであろう。

この視点に立てば、日本にとっても韓国の存在は今や北朝鮮問題に対するパワー・バランスの一環であるという、冷徹な戦略が必要とされる情況にあると見るべきだろう。それは、「日韓の交流をさらに深めて話し合いをすれば相互の理解が深まり、好ましい日韓関係が構築できる」という日本人に広く行き渡っている曖昧な幻想を基礎とした現状認識を捨てる事である。現実を直視すれば日韓間の人的交流だけを採りあげても既に年間500万人を超え(単純計算では1カ月当たり41万6000人以上が両国を往来している事になる)ている。これほどの大規模交流に到りながらも、領土問題や歴史問題を含めた様々な問題を巡る情況は悪化の一途である。この事は量的規模の拡大と相互理解は別問題であり、交流を如何に進めても関係改善に対する効果は極めて限定的である事を如実に示しているのだ。

従って、現実にはオバマ政権である限り米国は具体的なアジア政策を曖昧なままに放置して行くだけであり、米国の軍事費削減は続いて行く。この現実からすれば、上記のように韓国がパワー・バランスを保持するための選択肢として、中国に傾斜して行く事は止めようがない。結果、北朝鮮問題解決は日本が積極的な役割を担っていく方向が一番の近道である事を覚悟して戦略の立て直しを早急にやって行く必要がある(中国の北朝鮮問題に対する基本的な立場は本誌連載2013年6月号参照)。もしこのまま韓国の中国シフトが強まり、済州島に中国海軍の基地ができるような事態となれば、中国の外洋進出を阻止する尖閣の戦略的な意味は一気に消滅し、日本にとっては悪夢である。

日本としても北朝鮮問題解決に韓国の協力が得られず、中国と共に日本に敵対する勢力となる可能性を考えれば、ベトナム戦争の敗北で南ベトナムを失った米国がソ連とのバランスを保つために中国に接近したように、冷徹なパワー・バランス戦略を取らざるを得ない。その意味ではロシアとの連携が効果的であろう。

 

日本はロシアとの関係強化を視野に新しい外交戦略が必要

ロシアは軍事技術には相当な有効性が認められるが、民生用の資本財を含めて新技術で新しい産業を育て、輸出するような先進国型の成長戦略を持った経済構造には今のところ程遠い。従って現状ではエネルギー輸出で国家経済を保つしか手がない。この様な停滞状況にある時に中国が台頭し、圧倒的な人海戦術でシベリアに進出してくる事にロシアは脅威を感じている。そこに追い打ちをかけるように、全体的なエネルギー価格の低下現象が起きている。それは景気が低迷しているヨーロッパのエネルギー市場に著しく、ヨーロッパ方面での収入減は下降の一途である。加えて、アメリカのシェール・ガス開発でさらなる価格低下が進行していく。

この現状の中では唯一シベリアのガス田開発が日本を始めとしたアジア市場を当てにでき、ロシア経済を好転させる材料となってきている。しかしながら、シベリア開発には膨大な資金力と技術力が必要とされる。この様な状況下では、ロシアにとっては日本と共同でシベリア開発を行い、経済浮上の起爆剤とし、更には中国への牽制となれば一石二鳥の効果を生む事となる。

このアジア戦略に沿ってロシアの北朝鮮への接近は徐々に活発化してきている。ロシアはシベリアから沿海州を通って北朝鮮経由のガス・パイプライン施設を再三に亘って北朝鮮と協議を行ってきた。北朝鮮に於いては中国の影響力が圧倒的であるため、未だ具体的な段階に至ってない。が、北朝鮮にとっては経済開発の起爆剤となると同時に、ロシアのパイプラインを取り込む事で中国や韓国・米国への牽制となる。朝鮮半島有事となれば、そのステージにロシアの権益が加わり、金体制存続のための選択肢が増えるからである。

日本にとってはロシアを通じて北朝鮮への間接的アプローチの可能性ができ、北東アジアにおけるパワー・バランスを得る事が可能となる。この様に見て行くとロシアとの関係強化は極めて現実的な効果を生む可能性が強いのだ。当然の事ながら、これらの事柄を実現して行くためには、日本ができるだけ多様な政治的、外交的選択肢を持ち、日米安保を中心とした適切な防衛力の整備とそれの行使を可能にする法体系の構築、国内経済の立て直しと経済成長戦略、更にはこの項で述べて来たように、現実に根ざした国益重視の戦略的な視点が必要不可欠である。

 

 

<<バックナンバー>>
2013/7 北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第3話
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2013/3 中華思想とこれからの中国、第3話
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