「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

第二次安倍内閣発足直後に発表された論文から紐解く外交の目的と現実性、第1

 

戦後レジームからの脱却の柱は外交と安保

 

世界的な著名人が寄稿するプロジェクト・シンジケートで発表された安倍論文

 米国の衰退と中露の台頭という国際情勢の基本潮流の中で日本の外交・安全保障政策の方向性を見定める事が喫緊の課題となって来た。にもかかわらず、現安倍政権ではアベノミクスが前面に出て、現在開会中である臨時国会でも経済問題が重要な論点とされている。勿論、デフレ脱却のための経済政策は重要課題であり、国会での論議を尽くすべきである。しかし、安倍政権の目指すところは経済政策そのものに在るのではなく首相自らが幾度も繰り返し述べているように「戦後レジュムからの脱却」に在る。従って、デフレ脱却を目指す経済政策はそれを滞りなく進めていく必要条件であるとの位置付けと言えよう。そして、戦後レジュムからの脱却の重要な柱は外交と安全保障政策の基本を変換させる事に在ると言える。日本ではほとんど知られていないが、この事を彷彿させる安倍首相の論文がある(原文は英文)。

 それは第2次安倍内閣の発足直後の昨年1227日付で、チェコに本部を置く国際言論NPO団体「プロジェクト・シンジケート」で発表された「Asia’s Democratic Security Diamond=アジアの民主主義防護のダイアモンド」http://www.project-syndicate.orgだ。この中で安倍首相は中国を名指しで批判し、尖閣を標的とした中国の挑戦を退けるための方策を述べており、歴代の首相の中でも異例とも言える過激な表現と内容になっている。

 プロジェクト・シンジケートは日本を含む世界150カ国以上の新聞社、通信社と提携し、投稿を配信する媒体。寄稿者にはゴルバチョフ元ソ連大統領、ジミー・カーター元米大統領、投資家のジョージ・ソロス氏、マイクロソフト社会長ビル・ゲイツ氏等、世界的に影響力を持つ人物が名を連ねている。が、日本のメディアでは日本の首相が世界に向けて発信した内容をほとんど紹介していない(一説によると、その内容があまりにも過激なためだとも言われている)。

 

冷戦時の対ソ連を教訓にして中国をけん制

 ともあれ、私の手元にある原文を基にその内容を紹介しつつ、果たしてこの政策で安部政権の目的が達成できるかどうかを現実的側面に照らし合わせながら吟味して行こう。この論文の冒頭では2007年夏、第一次安倍内閣時代インド国会で演説した内容を披露し、インド洋と太平洋を結ぶ自由な航行を基軸としたインドとの連携が今後の両国にとっていかに重要かを訴えた事を述べている(この部分の紹介と分析は後ほど詳述する)。この直後に中国批判が名指しで始まる。


 「にもかかわらず、南シナ海は益々北京の湖化しているような感がある。この事について専門家は、中国はかつてオホーツク海がソ連の海になっていた情況を再現しようとしていると分析している。即ち南シナ海は人民解放軍海軍の核弾頭を搭載した攻撃型原子力潜水艦基地となる十分な深度がある。そして間もなく解放軍海軍の新しく建造された航空母艦も一緒になり、中国の隣国を益々恐れさせる事になる」

 南シナ海の現状をオホーツク海になぞらえた事はこの論文の象徴的なメタファーとなっている。冷戦当時、ソ連はオホーツク海に核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を多数展開させ、日本及び、在日米軍に圧力をかけていた。が、日本は高性能対潜哨戒機P3C100機以上導入し、米国以外では最大の機数を保有。更には情報システムを随時改善して最新設備を整えることで、ソ連の潜水艦の動きを封じ込めた。この実績を基に南シナ海の状況をオホーツ海と対比する事で、ソ連海軍の原子力潜水艦を封じ込める力を持った日本が、近代化しつつあるとは言え、それより遥かに劣る中国海軍には充分対応できるというシグナルとなっている。更には南沙諸島の領有権問題で中国の軍事的な威嚇に対峙している東南アジア諸国に対して、日本と連携すれば中国の威嚇を過度に恐れる必要はないとの精神的バックアップとなる。その具体的な表れとして、日本政府は外洋巡視船10隻を、スカボロ環礁を中国に占拠されているフィリピンに供与する。

安倍論文は、中国が法に基づかず軍事的な威嚇によって南シナ海の現状を変更しようとしているとの状況認識を示した後、続いて東シナ海での中国の圧力を断固跳ね返す覚悟を語る。

 「(南シナ海に於いて中国の軍事的圧力と威嚇による島の実効支配が進んでいる事)この事が東シナ海に在る尖閣諸島周辺で連日行われている中国政府による圧力の行使に日本が絶対に挫けてはならない理由である。事実、人民解放軍海軍ではない中国の法執行機関の軽武装船のみが日本の接続水域や領海を侵犯している。しかし、この様な穏やかな侵攻には誰も騙されないはずだ。これらの公船による圧力を常態化する事で中国は尖閣諸島周辺海域の領有権の既成事実化を確立しようとしている」

つまり、中国が軍事圧力と威嚇によって南シナ海を無法地帯化してフィリピン領、ベトナム領の島々を占拠している現状からして、尖閣諸島周辺の東シナ海で同様な行為を行っている中国の圧力には日本は決して屈しない。現在は海軍ではなく、武装公船による領海侵犯が行われており、軍事的圧力そのものではない。が、この様な一見穏やかに見える侵攻には騙されない。中国の意図は明白であり、これらの公船の圧力を常態化する事で中国は無法にも尖閣諸島周辺の領有権の既成事実化を確立しようとしているという事だ。

 

中国の狙いに対抗するメッセージを世界に発信

 これ程までに中国の狙いを明確化し、これに対抗する覚悟を世界へ向けて発信した日本の指導者は戦後初と言えよう。最早日常化している中国公船の尖閣諸島周辺海域での領海侵犯や航空機、無人機等による領空侵犯等には真っ向から立ち向かうというこの安倍論文は中国側から見れば宣戦布告に近いものと見えてもおかしくはないだろう。安倍政権は中国が法を無視し、武力を背景として台頭する事は許し難いとしている事がこれで分かる。

中国が大々的に尖閣諸島の領有権を主張し、南沙諸島を中国領と宣言するまで、この海域は静かな海の道であったし、豊富な漁場でもあったのだ。特に尖閣諸島は日本の死活的利益(Vital Interest)であるシーレーンを確実に守るためには重要な地点である。更には南沙諸島にまで手を広げられては、中東からの石油輸入ルートの要であるマラッカ海峡通過が困難となる。これはまさに日本の死活問題なのだ。中国の言う「核心的利益」と同じ意味を持つのは言うまでもないだろう。

互いに絶対に相容れられないゼロ・サムゲーム情況は如何にして出来上がったのか。その原因の一つは大国となった中国が一体どのような国家を目指すのかという点にある。取りあえず経済大国となったがその力を中国自身が持て余し、大国として国際社会で振る舞う経験が不足しているが故に迷走していると見るのが適切だろう。次回はこの点を視界に置いて安倍論文を読み進めて行く。安倍政権が中国と向き合うためにインドと連携する必要を説いている点に注目し、中国とインドの違いを見てみよう。

 

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