「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

第二次安倍内閣発足直後に発表された論文から紐解く外交の目的と現実性、第2話

インドとの連携強化は日本の国益に必要不可欠

 

◎中国の防空識別圏設置で現実味を帯びた安倍論文

前回に述べたように、安倍首相はこの論文の冒頭の部分で第1次安倍内閣時代(2007年8月)にインド議会で行った演説「Confluence of the Two Seas=二つの海の交わり」を引用している。太平洋とインド洋は一体の海であって二つの海を自由に航行できる開かれた海にするべきであるとし、インドと日本がより一層連携する必要性を強調。先月号で紹介したように、尖閣を巡る中国の軍事的圧力には決して屈しない覚悟を述べたあと論文では以下のように続く。

「もし、日本が(中国の圧力に)屈したならば南シナ海は(中国によって)更に要塞化されたであろう。日本や韓国などの貿易立国にとって自由航行(ができるかどうか)は重大問題だ。東シナ海・南シナ海とも公海であるにもかかわらず、米国や日本、その他大多数の国がこの海域に入ることが困難となるからである」

 この指摘は現在では現実の問題となりつつある。中国は尖閣諸島を含む空域に突如防空識別圏を設置し、届け出のない航空機が侵入した場合には防御的な緊急措置を採ると威嚇。防空識別圏は各国の防衛当局が領空に飛来する可能性がある航空機を識別するために設置するもので、届出なしにその空域に侵入したからといって「防御的な緊急措置を採る」べきものでない事は世界的な常識である。にもかかわらず、中国の採った措置は防空識別圏を自国領空と同じ扱いとする宣言に等しい。となると、これを許してしまえば、中国が勝手に防空識別圏を拡大し、自国領空として無限に広げる事が可能で、理論上は全世界の空が中国の領空になるまで歯止めが利かなくなってしまう。

 さらには、東シナ海での防空識別圏設置とほぼ同時期に空母艦隊が海南島に移動。近い将来、南シナ海でも中国式の非常識な防空識別圏を新たに設置する事が確実視される等、南シナ海への軍事的圧力を強める準備を着々と進めている。言うまでもなく、この処置は太平洋とインド洋を繋ぐ東シナ海及び南シナ海を「北京の湖」化する事(本誌2013年11月号参照)で分断する意図を示したものだと言えよう。

 2013年末に起きた国際常識から遠く離れた中国政府のこれら一連の措置は当然のことながら、日米を始めヨーロッパ、アジア各国から非難を受けている。中国設定の防空識別圏の中には米軍の訓練場も入っているし、現在日本が設定している識別圏は戦後米国が設定したもので、自衛隊がそのまま引き継いできたものだ。米国の目から見れば、中国は米国主導の戦後秩序を力で変更しようとしていると映るだろう。事実、米国は訓練の予定通り2機の戦略核爆撃機B52をグアムから飛ばし、中国の防空識別圏内を無通告で飛行。これを大々的に公表することで中国に対する強硬な姿勢を示した。続いて自衛隊の偵察機もエリア内を飛行、韓国空軍も米軍と同様な行動をとったとされている。韓国は離於島の管轄権を巡って中国と係争中であり(2013年8月号参照 )、新しい中国の防空識別圏にこの島も入れられていたのだ。この事からすれば、このところ反日の立場から急速に接近していた中韓の関係も俄かに崩壊する可能性も出てきた。

 安倍論文は今や現実となってきたこの様な事態に対しての対抗策をこう述べている。

 「この様な進展(中国による両シナ海の要塞化)に対する不安が勃興することに対応して私がインドで述べた事は、日印両政府はともに太平洋とインド洋にわたる自由航行の保護者としての重責を担う事である。私がここで告白すべき事は2007年の時点で中国の領土・領海に対する拡大策がこれほど急速に進むとは予測できなかった事だ。現在進行中の東シナ海及び南シナ海での争いは日本の外交政策上最優先課題であり、日本の戦略範囲を広げるべきだということを意味している」として、インドとの外交・安全保障を含む様々な分野でなお一層の連帯強化を強調しているのだ。


◎核保有国インドの存在が中国の暴挙を抑止する

  インドは1962年、侵入してきた中国軍との間で国境紛争があり、中国はパキスタンと供に仮想敵国とされている。1978年、核実験に成功したインドは核保有国となったが、これは中国の核兵器に対抗するための手段であり、中印ともに核兵器による相互確証破壊の関係が成立。インドと中国との関係はこれにより安定化した。パキスタンも1998年に核実験を行い核保有国となり、インドとパキスタンは敵対関係にありながらも、互いに軍事的エスカレートに歯止めがかかる状態になっている。

 この様に、兵器の存在自体が脅威だとするわれわれ日本人が持つ一般常識とは違って、インドの核兵器は平和と安定をもたらす現実的なツールとしての存在となっている。更に言えば、インドは2012年4月に射程距離5000km超の核弾頭搭載型・長距離移動式ミサイル「アグニ5号」の実験に成功。このミサイルは、欧米に届く大陸間弾道ミサイルに仕立て上げる事が可能である。インドはNPT(核拡散防止条約)にも加わらず、ミサイル管理レジームも独自開発したわけだ。この事は欧米先進国が作った様々な規制があるにもかかわらず、必要な物は独自に作り上げるという、開かれた民主主義的手続きを経た歴代の政府がインド独自の現実的戦略眼をもった安全保障体制を着実に作り上げてきた事によると言えるだろう。イランや北朝鮮の核開発と違ってインドの核保有、その運搬手段としての長距離ミサイルの開発成功という事実について、欧米を始めとして、世界中のメディアがあまり関心を持たないばかりか、国際社会全体が脅威として受けとっていない。この事実が示すのは「重要なのは兵器自体ではなく、それを有する政権の在り方だ」というメタファーである。つまり、国家の意図と意思の問題であり、イランの核兵器はイスラエルを抹殺するべき国と位置付けているからこそ脅威となりうる。北朝鮮も日本敵視政策の延長線上に核とミサイルの存在がある。従って外国に対する威嚇や攻撃又は国力誇示のためではなく、抑止のために核武装するという冷徹な核戦略のもとで、安全保障政策の基本が組み立てられているインドの存在は確実に中国への抑止力となりうるのだ。この視点からすれば、日本の国益上インドとの安全保障に於ける連携は極めて有効な手段となるだろう。


◎貿易・人道的支援などでもわかるインドと中国との決定的な違い

 インドは人口と経済規模からすれば近々経済大国の位置に就くことができる存在である。と同時に核兵器を持った軍事大国でもある。その大国が周辺諸国ばかりか、世界中から脅威と思われていないという事実は世界史的に見てもまれな存在であろう。同じ大国を標榜する中国が東シナ海と南シナ海で行っている様々な行動と比較して見れば、明らかな違いがあるのは誰の目にも明らかだ。最も危惧するのは、その目指すところはどこにあるのかという国家としての方向性を示しきれていない点だ。現状では中国の軍備拡張と領土的野心には歯止めがない様に見え、外から見れば中国そのものが大国としての明確なイメージを持っていないと見えるのである。

 この事が如実に表れたのが今年11月、台風30号によって甚大な被害を受けたフィリピンに対する態度である。中国は当初10万ドルの経済的援助を約束した。主な国の支援金の額はオーストラリアが3000万ドル(約30億円)、欧州が1100万ドル、アラブ首長国連邦が1000万ドル。国内外のメディアを中心とした批判後に中国は160万ドル相当の追加支援を行うと発表したが、その支援総額は日本の6分の1にも満たない。中国とフィリピンは南シナ海の南沙諸島・スカボロー環焦を巡り領有権争いの最中であり、中国はこれまでフィリピン産バナナの輸入禁止措置を採るなど様々なステージで圧力をかけ続けてきた。従って、今回の援助措置もフィリピンとの対立を理由としたものである蓋然性が高い。今年3月11日、東日本大震災記念式典が東京で挙行されたが、中国は日本に多大の支援をしてくれた台湾の正式参加を理由に式典への欠席を決めた。さらに遡れば、中国漁船が尖閣諸島近海で海上保安庁の巡視船に体当たりした事件の処置を巡って、日本へのレア・メタル禁輸、建設会社フジタの社員2人の拘束など、事件そのものとはかかわりのないところからの圧力で、自らの政治的意図を押し通そうとしてきた。

 この様なやり方は、世界中から大国の条件とされている「人道的支援」という概念が中国共産党政府には著しく欠けていると見られてもいたしかたない。いくら争いがあろうとも、不測の事態に対する支援は別と考えるのが近代国際社会の常識である。

 この点についても安倍論文はインドと連携する意義を以下のように述べている。

「世界の交易品の40%が通過するマラッカ海峡西端に位置するニコバル諸島からアンダマン海に至る東アジアの地域大国としてのインドの価値はより重要である。現在、日本は常にインドと2国間相互の軍事的対話を続けてきており、米国を含む3国での公式的な対話を始めている。中国はレア・アース供給を外交手段として使用したが、インド政府は政治的対立があったとしても、日本に対して希少地下資源供給の保証を表明している」

 この様に安倍首相は論文の中で、地域大国であるインドに対して日本は軍事面での2国間協力はもとより、米国を含んだ多国間協議を継続する事で安全保障面での充実を図る。と同時に、レア・アースのような日本の産業にとっての重要資源供給を政治的対立への圧力としては使用しないとしたインド政府を称賛。インドと連携する意義を強調しているのである。

 次回は安部論文の表題の中にある「ダイアヤモンド」構想を軸に論文を読み進め、その全体的な評価について述べていく事にする。

<<バックナンバー>>
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