「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師


日本の海外における危機管理の現状と対策 第四話



正規軍を補完する能力を十分に持ち合わせたPMCの存在


◎政府機関と緊密な関係を持つ有力なPMC

 
2004年3月31日午後、イラク戦争でフセイン政権を崩壊させた後、引き続き多国籍軍が駐留し、治安安定化作戦を実施。その渦中に米軍の補給物資を運ぶトラック・コンボイを警護していたアメリカ民間人がファルージャ市郊外で待ち伏せ攻撃に会って殺害され、黒焦げの死骸が橋に吊るされるという事件があった。その惨状がTVカメラに収められ全世界に流された。殺された4人はアメリカ・ノースカロライナ州に本社がある「ブラック・ウォーター社」という警備会社の社員であった。ブラック・ウォーター社の職種は警備会社となっているが、元アメリカ海軍の特殊部隊・SEALS出身者が集まって設立された会社で、第一線に出ている社員は全員元特殊部隊員達であった事が判明。この事件を契機にPMCの存在が広く世界に認知される事となった。

 インターネットでホームページにアクセスして見ると、この会社のビジネス・アピールは自前で広大な戦闘訓練施設を持ち、偵察用も含めて各種ヘリコプターも所有している事。更に訓練センターの中には街が再現されていて、そこに世界各国の軍や警備関係者が派遣され、人質解放を含む各種特殊訓練を行うことであった。この会社自体、警備会社と言っても、日本の警備会社を遥かに凌ぐ規模と人員を抱えている。

 これらPMCの事業内容は、国内国外問わずに作戦中の兵士達に物資補給や、戦場での軍事訓練、作戦への助言などのサービスをビジネスとしてやって行こうとするものだ。従って、ある社はかつてテロリスト達の攻撃の的となっていた中東の要人の警護を行い、ある社は、空港警備の本を書き、またある企業は高級退役将校を雇って、優秀な現役兵の引き抜きに当たらせたり、学校での軍事教練教官として彼らを派遣して、次世代の兵士達を育て上げる仕事をしている。当然のことながら、これらの民間警備会社が政府と深い関係にあるのは言うまでも無いだろう。中でも、ペンタゴン(米国防総省)が、最も深いつながりを持っている。

事実、ペンタゴンはアメリカからはるかに離れたアフリカやバルカン半島諸国の軍事訓練を軍事サービス派遣企業に請け負わせており、少なくとも、2000年から2002年にかけて、アメリカ政府はこれらの企業と契約を結び、元軍人たちをボスニア、ナイジェリア、マケドニア、コロンビアなどの他、世界各地のホット・ゾーンに送り込んでいた事が確認されている。これらの中にはよく知られた企業名がある。例えば、ケロッグ・ブラウン・アンド・ルート社はかつて、チェイニー副大統領(ジョージ・ブッシュ政権当時)が重役を務めていたハリバートン社の子会社だ。


 ◎第二次大戦後 各戦地で残した様々な功績が評価

 
また、巨大軍需企業の子会社である軍事サービス会社もある。サウジアラビア国家警護隊の訓練を担当しているヴィネル社はアメリカ最大級の兵器製造会社ノースロップ・グラマン社グループに属している。この会社では2003年5月にサウジアラビア国内で自爆テロ攻撃に遭い社員9名が死亡。1995年にも同じような自爆攻撃に遭遇し、数名の死亡者が社員の間で出ているのだ。

ヴィネル社の創立は1931年で、創立当時はロサンゼルスの零細建設業者であった。ヴィネル社が急成長をしたのは、ロサンゼルスのフリー・ウェイシステムの建設に携わってからである。その後、野球のメジャーリーグ球団であるドジャーズのドジャー・スタジアム建設、更にはルーズベルト大統領のニューディール政策にまつわるダム建設など、当時の米国国内の大建設ブームに便乗できたからだ。第2次世界大戦末期には米軍の補給関係の仕事を請け負うようになっていた。大戦直後には、中国大陸の内戦にかかわり、中国共産党と内戦を始めた国民党軍に銃や弾薬などの武器を運び込む仕事に従事していたのである。その後沖縄、台湾、タイ、南ベトナム、パキスタンなどの空軍基地の建設に携わり、ベトナム戦争の最盛期にはヴィネル社は5000人もの従業員をベトナムに送り込んでいたのだ。1975年3月の「ビレッジ・ボイス」誌によると、ペンタゴン関係者は当時、ヴィネル社のことを「ベトナムの米軍傭兵部隊」と呼んでいたという。

更には1975年当時、ヴィネル社は7700万ドルでサウジアラビア国家警護隊の訓練を担当する契約を結んだ。1979年には訓練をする任務についていたヴィネル社の社員自らが、戦闘に加わった状況証拠も見つかっている。この時はサウジ政権に対抗する反政府武装勢力がメッカのグランド・モスクを占拠して立て篭もった。ヴィネル社の教官たちがモスクに出向き、サウジアラビア軍の作戦立案と指揮に参加していたと報告されているのだ。この時の働きが評価されて、アメリカ陸軍のグリンベレー元隊員がサウジ王家のボディー・ガードとして雇われるようになった。それ以来、陸軍のグリンベレー、海軍のSEALSなど、米軍の特殊部隊員が大々的にリクルートされるようになったと言われている。そして1981年、ホメイニ革命でイランのパーレビ国王が追放されたことにサウジアラビア国王が危機感を持ち、警備を強化したため、サウジ政権内におけるヴィネル社の役割は飛躍的に重要度を増したのである。

もう一つの老舗がディン・コープ社(年間売り上げ高20億ドル)である。この会社はアフガニスタンのカルザイ大統領の身辺警護を始め、世界各国に散らばるアメリカ国務省要人達をガードしている。ディン・コープ社の創立は1946年。トルーマン大統領の命令により、第2次世界大戦の余剰武器や軍関係の機械類を利用して元兵士達に仕事を与えるために作られた「カリフォルニア東部航空」が基礎となっている。その後、アメリカのミサイル開発プログラムに関与するなど、航空関連研究の主要な役割を担うと同時に、アメリカの戦闘機パイロットの訓練と技能維持に従事。その主要基地であるバージニア州フォート・ロッカーで航空サービスに主要な役割を果たしている。


◎米正規軍をも訓練し得る能力を持つPMCが各国で戦術や要人の警護を指導

 これらのPMCの中でも群を抜いて大きいのがアメリカのMPRI(Military  Professionals Resources Inc. )とイギリスのアーマー・グループだ。MPRI社は元将軍を3人、佐官クラスの上級将校数10人を中心として正社員は900人程度だが、世界的なネッワークを張っており、必要とあらば、ごく短期間に特殊部隊員を含む元兵士1万人を集められると言われている。MPRI社は元将軍達の人脈をフルに使って、ペンタゴンの中に深く入り込んでいるのが最大の特徴だ。例えば、この会社は陸軍部隊管理学校の運営に関与すると共に、駐屯地の上級訓練コースに講師を送り込むほか、軍事訓練や戦闘用のマニュアル作りまで行っており、まさに米軍の正規軍を訓練しているのだ。更には、海外活動も活発で、戦地を含め、多くの国で軍事訓練を行っている。ボスニア戦争が激しくなり、1991年に国連がクロアチアに武器や軍事訓練の提供を禁止する制裁処置を決定した時、正式に軍事援助が出来なくなったアメリカ政府はクロアチア軍にMPRI社を紹介。これを受けてMPRIは創設間もないクロアチア軍に社員を派遣し、訓練を施し、最新鋭の戦術を教えた。

アメリカ軍が推薦した事もあって、MPRIの信用は絶大で、クロアチアの敵国であったボスニア軍が特にMPRI社を指名して協力を要請したのである。つまり、MPRI社は敵対する双方に軍事的なサービスを提供するビジネスを展開し、その仲介をアメリカ政府が行ったという構図が見えてくる。この事でMPRIの名前は一気に知れ渡った。その後は120人にも上るアフリカ各国の指導者の警護訓練や、5500以上の部隊に対する訓練、それに赤道ギニアでは油田のある沿岸の警備計画を立て、反政府ゲリラに対して絶大な効果を挙げている。MPRIと並ぶ規模のPMC、アーマー・グループ(イギリス)は国連のPKO活動そのもの全てを請け負おう事を最大の企業目標とし、国連要人に対して活発な営業活動をしている。

この他、世界の主だったPMCを挙げてみると、南アフリカのエグゼクティブ・アウトカム社が有名だ。この会社は軍事訓練だけではなくて直接戦闘に参加。熟練戦闘機パイロットも派遣でき、アンゴラ内戦では反政府軍を鎮圧し、シェラレオネでは不安定だった治安を回復するのに多大な寄与をした事で知られている。更には、コンゴ、アンゴラでの大使館警護に当たっているイギリスのDSL(Defense Systems Ltd)。カメルーン、レバノンで要人警護についているフランスのSecrets社、コンゴ共和国内戦でリスバ大統領派の民兵を訓練したイスラエルのLevadan社などがある。

2005年5月、イラクで死亡した斎藤昭彦氏(千葉県出身)が所属していたイギリスのPMC、ハート社はそのホームページで(http://wwww.hartsecurity.com)、BBCなどマスコミのイラク取材のコーディネイトならびにエスコートを会社の実績として挙げている。この他、ハート社は対テロシステムの構築、情報収集、危機管理システムの構築と民間企業の社員向け危機対処訓練を請け負ってきた様々な実績をアピールしている。


◎BASICの報告書によるとイラクで常時活動するPMCは66社が確認

「英米安全保障情報委員会」(British American Security Information Council = BASIC 以下BASICと表記)は「一握りの契約者集団:イラクに於ける民間軍事会社の実際的評価事例」と題された報告書(2004年9月)を公表した。これは、イラクに於ける民間軍事会社数から本社の住所、その契約内容、契約金、事業遂行中に死亡した社員数やその死因に付いてまで詳細に調べ上げたものである。BASICは政府の政策分析を行い、防衛、軍縮、軍事戦略や核政策を社会に知らしめ、知的論議を育む事を目的とした英米両国にまたがる独立研究機関で、資金の提供者にはロックフェラー財団も名前を連ねており、委員会の主要メンバーには英米の著名な国際関係論、国際政治、安全保障などの大学教授、学者、ジャーナリストなどが入っている。

この報告書によると2004年9月現在、イラクに入り込んでいる企業は確認できただけでも66社、その他弱小会社や、オプションで短期間契約の会社などを入れると企業数は常時100社を優に超える状態であるらしい。当然のことながら、MPRI社やブラック・ウォーター社、ハート社などマスコミで取り上げられる企業は契約数、社員数共に多いが、ほとんど名が知られていない会社も多い。更には韓国の会社などがリストの中でとり挙げられていたのである。これらを含めてイラクで事業を行っている特徴的な会社をチェックしたものをアルファベット順に挙げてみた。

<ADコンサルタンシー>

本部 イギリス サットン市

主たる事業=企業等のリスクや危険度の査定の他、イラクで活動する団体の警護・個人のボディーガード。イラク国内の旅行案内及び警護それに、ガス・石油施設の警護

<AKEリミテッド>

本部=イギリス ヘレフォード市

主たる事業=危機管理の専門家の派遣。社員は武装警護サービスだけではなく、敵地に於ける政治、危機管理、情報などの訓練及び、文化に対する解説、危機管理のデータベース開示、諜報活動などを専門としている。世界で最も厳しいとされるイギリスの特殊部隊SAS(Special Air Service)で訓練を受けたオーストラリア人13名が雇われてイラクに滞在。

<アーマー・グループ>

本部=イギリス ロンドン市

主たる事業=モスル、バグダッド、バスラなど第一線戦闘地域の他、イラク全土に展開している米英軍やその施設の安全管理、危機管理戦略を立案。具体的にはバクダッドにある軍総司令部の警護、更にはハリバートン社、ビッチェル社などが請け負っている軍需物資や軍用食料運搬車列の警護作戦の運用と実施に携わっている。アーマー・グループはイギリス最大級の民間軍事会社でニューヨーク証券取引所の会員でもある。

<ブラックハート・インターナショナルL.L.C.>

本部=アメリカ ペンシルベニア州

主たる事業=この会社は若くて積極的な女性がオーナーを務め、1999年から事業を始めた新しい会社である。物資の調達、安全管理、軍事訓練、ボディーガードなどのサービスをイラクで行っているが、その契約の大部分はかつて軍や警察の特殊作戦部隊で軍事訓練を受けたスペシャリストたちが請け負っている。

<CACI>

本部=イギリス ロンドン市

主たる事業=この社は総額1億2500万ドルでアメリカ海軍に対する長距離補給サービスを請け負っている。しかし、イラクに於いて最も有名となった事業は陸軍と結んだ契約に基づいてバグダッド郊外にあるアブグレイブ刑務所への尋問官派遣である。アブグレイブ刑務所ではイラク人囚人の虐待問題が世界中に報道されたが、この派遣契約は2003年8月に1990万ドルで結ばれた1年契約であった。虐待に加わったとされる派遣社員には何もお咎めは無かったが、アメリカ陸軍の兵士は軍法会議にかけられて有罪となった。この事が、後にも大きく採り上げられて、軍に協力するPMCの法的問題が取りざたされる事となったのである。

<センチュリアン・リスク・アセスメント・サービス>

本部=イギリス アンドバー市

主たる事業=主に、イラクに来るNGO団体、国際機関、人道支援ボランティアグループ、ビジネスマン、マスコミ各社の取材メンバー達への物心両面の支援を行っている。特に、過酷な環境の危険地帯に入り込む者達の警護サービスを提供。

<コチイズ・コンサルタンシーInc>

本部=アメリカ フロリダ州

主たる事業=元特殊作戦司令官、イラク戦争での砂漠の盾・砂漠の嵐作戦の司令官ジェシーL.ジョンソン氏が最高経営責任者を勤める会社で、イラクでビジネスを展開するアメリカの大企業やVIPの警護に従事している。

<コントロール・リスク社>

本部=イギリス ロンドン市

主たる業務=イラクを訪問する各国政府関係者、駐イラク日本大使館を含む各国政府機関、イラク復興支援従事者、ビジネスマン、などを警護する武装ガードマン派遣。元イギリス空軍特殊部隊SAS司令官であり、ボスニア派遣国連警護軍指揮官であったサー・ミッチェル・ローズ氏を重役に迎えており、イラクでは500人を越える元イギリス軍関係者が中心となって作戦に従事。特にSAS出身のエリート達の活動が評価されている。

<エリニス・ミドルイースト>

本部=アラブ首長国連邦 ドバイ市

主たる事業=この会社は海外にいる亡命イラク人とイラク在住者からなる14000人に登るイラク人警護人を雇い、数十名の南アフリカ軍及びイギリス軍元兵士の指揮下でイラク国内の重要石油施設を警護する1億ドルのジョイント契約事業の一部を担っている。

<グローバル・リスク・ストラテジーズLTD>

本部=イギリス ロンドン市

主たる事業=この会社はイラク戦争後、イラク国内でアメリカ政府及び国連、更にはイラク復興事業に携わる主要企業の警護を主に行っている。そのため、この会社は1500人の武装したガードマンを雇用しており、その中にはイギリス陸軍のグルカ兵部隊元メンバー500人以上が加わっている。

<グローバル・セキュリティー・ソース>

本部=アメリカ コロラド州

主たる事業=この会社の社員300人がイラクのアメリカ大使館の警護に付いている事は公にされている。この会社のもう一つの重要な事業はイラクで警護の仕事を求めている人材を世界中から募り、イラクでビジネスを展開している企業に警備要員を斡旋する人的資源のブローカー業である。

<ICPグループLTD>

本部=イギリス ロンドン市

主たる事業=1991年の砂漠の嵐作戦から事業に携わっている老舗。世界各国の大企業、NGO、政府機関を警護している。警備部門の社員はイギリス、アメリカの特殊部隊出身者又は特別に優れた軍事技術の体得者に限定されている。その他警護用品サービス、補給活動、通信業務などが主な事業となっている。

<メテオリック・タクチカル・ソルーションズ>

本部=南アフリカ プレトリア州

主たる事業=要人の警護、危機管理など、通常の警護事業も行うが、この会社の特徴は組織に対する特別訓練プログラムを対象に応じて作成し、実行して行くところにある。アメリカ国防総省契約管理局はこの会社とセキュリティ・アドバイス及びそのプランニングに対する契約(59万9383ドル)結び、新生イラク警察の警護部隊訓練を行っている。

<ニュー・コリア・トータル・サービス>

本部=大韓民国 ソウル市

主たる事業=このリストに載った中で、アジアに本拠を置く唯一の企業。イラクに進出した国際企業の警護活動のためにボディ・ガード100名を送り込んでいる。

<DTSセキュリティーLLC>

この会社の存在は2004年9月、3人の従業員がイラクで武装勢力に拉致された事で明らかになった。しかし、ネバダ州政府が受け付けた会社設立文書によると、この会社の本部はネバダ州にあるレイク・タホの南岸ダグラス・カウンティ保安官分署の隣にある事になっていたが、実際にはバーガーキング・レストランの裏手にあるコンビニに設置されている郵便箱であった。この事実から、この会社の存在そのものがいかがわしい。今後、この種のいかがわしい会社がイラクでのビッグ・ビジネスを求めて次々と設立される可能性が高いだろうし、事態が進化するに連れて今回のケースのように、その実態が明らかにされてくるだろう。



◎冷戦終了後再び訪れた傭兵需要の高まりと米政府の思惑が合致

 傭兵を大量に使った戦争はフランス革命が起きた18世紀の終わりごろには幕を閉じ、国民自らが兵士となる国民軍に取って替わられた。その後、ヨーロッパ列強がアジアやアフリカ、アメリカなどを植民地化していく過程で現地の戦士たちを雇って、植民地管理に当たらせたが、その中でも有名なのが、イギリス軍に編入されているネパールのグルカ兵だ。

 第2次大戦後は東西の冷戦が始まり、傭兵部隊の活躍する場はほとんど無くなった。しかし、冷戦が終了するとアフリカや中東、東ヨーロッパなどで小規模な局地紛争が増えてきたことで傭兵の需要が高まったのだ。逆にハイテク武器の発展と人員削減の中で冷戦時代には花形であった特殊部隊の存在は、益々軽いものになってきた。特殊部隊員達は若い頃から様々な専門技術を身に付け、肉体も極限状態にまで鍛え上げているから、実にもったいない状態であったのだ。PMCはこのような状態にあった元特殊部隊員を雇用することで成り立っており、あぶれた特殊部隊員の受け皿的存在となって互いに好都合な関係にあった。

 PMCが提供する軍事サービスの質が高い事もあるが、政府にとって都合の良いのは、彼らがあくまでも民間人である事だ。民間人なら基本的には軍規に触れる事がなく、自由に戦闘行為が出来るし、政治的に正規軍が動くと大問題になる場合など、手っ取り早く解決できるなどのメリットが大きい。

それに軍が動くとなれば莫大な費用がかかるが、PMCの社員なら隊列を組んで行進する必要もなく、経済的にも安上がりだ。そして何よりも政府にとって好都合なのは、戦死の問題がないからである。PMCの従業員は人目につかないところで活動するので戦闘で死亡した場合、正規軍の兵士が死体袋で帰国したなら大きく撮り上げるであろうマスコミの注目を集める恐れもない。万一見つかっても、軍服を着ていないので否定するのは簡単だ。特に、アメリカ軍にとっては9・11以降に始めたアフガン、イラクでの対テロ戦争ではドイツ、フランス、ロシア、中国などの大国の支持が得られず、この戦争に協力している諸国は30カ国以上ではあるが、大作戦を遂行出来るほどの軍隊を派遣しているのはアメリカ以外ではイギリス軍だけというのが実情だ。


◎テロとの戦いなど新たな火種も加わり当面は米軍の規模削減より増強が現実的

アメリカの非営利政治研究組織「グローバル・セキュリティー」がまとめた「軍団はどこに?地球規模の米軍配置」(2005年3月)という調査報告書によると、アメリカは当時、世界中の130カ国に兵士を駐留させていた。その一部は戦闘や平和維持活動に従事したり、外国軍の訓練に当たっている。

確かに、アメリカは第2次世界大戦の終結以降、ドイツや日本の占領、朝鮮戦争、ベトナム戦争、など旧ソ連との冷戦を戦い抜くため、海外で強力な軍事関係を維持し続けて来た。冷戦後はその負担から開放されると考えられたが、現実にそうはならなかったのである。

現在は国際テロ組織アル・カイダやイスラム国との戦いがある。イラクとの戦闘、それに続くゲリラ攻撃、リベリア内戦、アフガニスタン国内の動揺、フィリピン軍とのイスラムテロ組織掃討作戦、更には不安定な朝鮮半島情勢に対応し、日本を安心させるため、西太平洋に米軍の強力なプレゼンスを維持する必要がある。これらの情勢を見ると全世界に展開しているアメリカ軍を削減する事は困難で、むしろ増強が当面の急務となっている。

先の「グローバル・セキュリティー」の報告書が引用した公式統計によれば、2003年9月現在米陸軍には155の戦闘大隊がある。そのうち実戦に従事している大隊は2001年10月以前には17に過ぎなかったのである。ところが、2003年9月の時点で実戦地域に配備されている戦闘大隊の数は98にも登った。

この数字を維持するために、アメリカは25万5千人の陸・海・空・海兵隊・沿岸警備隊員に加えて13万6千人の州兵と陸軍予備役まで動員し、海外での戦闘や平和維持に当てざるを得ない状況なのだ。更には、イラク駐留長期化によって、米軍は厳しいローテーションを強いられていた。2003年春にアメリカ本土で沖縄派遣のために待機していた部隊を含め、沖縄駐留海兵隊からも3個歩兵大隊がイラクに派遣された。その後、第31海兵遠征隊2200人がイラクに派遣されたため、沖縄にはアメリカ軍の地上戦闘部隊不在の状況が2005年3月下旬まで続いていたのである。


◎あてにならない同盟諸国と米軍のスリム化によってPMC市場が拡大

アメリカ政府はこのような現状に照らし合わせて、同盟諸国の政府に対してイラクやアフガンに兵を送るように圧力をかけていたが、前述のように実際に補給能力を備えた重量級の地上軍を派遣しているのはイギリスだけである。この様に孤立した状態のアメリカ軍にとってはPMCの存在は必然的に重要度を増して来たのだ。その事を裏付けるような事件がイラクで起きた。イラク中部のナジャフで2004年4月4日、アメリカ軍に雇われていた民間軍事会社、ブラック・ウォーター社の武装警備要員8人が数百人の過激派民兵と交戦し、連合国暫定当局(CPA)現地本部を守った。この日、シーア派の反米指導者ムクタダ・サドル師の支持者と見られる数百人の武装集団が建物を包囲。ブラック・ウォーター社の社員8名と米軍の憲兵4人、米海兵隊員1人が中に取り残された。武装勢力側がロケット砲や小銃で激しい攻撃を加えたのに対し、警備員らも屋上から小火器で応戦。その間応援のアメリカ軍特殊部隊が到着し、CPA現地本部は陥落を免れたのである。この事件後、ブラック・ウォーター社は2009年に「Xe Services」に社名を変更。更に、アメリカのバイオ・化学メーカー「モンサント」に買収され、現在は「Academi」(ttp://www.academi.com/)と名義を変更している。

これまで述べてきたようなPMC重視の傾向を助長するのが、アメリカ政府の財政政策と世界戦略の転換である。ブッシュ政権の財政政策は基本的には共和党の伝統的政策である減税政策を基本としており、多額な国家予算を必要とする軍拡路線にはそぐわないのだ。更に言えば、2001年9月11日を起点としてブッシュ政権は冷戦構造崩壊以降の世界認識の中心に「国際テロ組織との対決」というコンセプトを据え、ソ連との軍事対決を想定したこれまでの重厚長大な軍事戦略を転換し、より機動力と柔軟性を持った軍編成を必要としているのである。

この戦略に沿ってラムズフェルド国防長官(当時)は「米軍は24%もの過剰がある」と査定し、アメリカ領内で閉鎖可能な基地を選定する作業に取り掛かった。ブッシュ大統領もソ連の脅威が無くなった事で、ヨーロッパの安全保障関係の劇的な変化を受けて「10年間で海外駐留米軍7万、軍属10万人削減」を打ち出した。この結果、アメリカ軍のリストラは基地の削減のみに留まらず、警備、調理、病院運営など戦闘に直接かかわらない兵員の大幅削減に繋がったのである。

国防総省は4000種にも及ぶ軍の職種を見直し、直接戦闘に関係ない職種を大幅に見直して、兵士でなくても出来る業務を洗い出す作業に着手。とりあえず、2003年秋以降に8000人分の業務を外部委託し、2005年秋に2万4000人分の業務を軍の任務から外し、業務を外部業者に請け負わせた。ペンタゴンは、この分戦闘員として使えるアメリカ兵が増え、イラク戦争後に常態化した戦闘員不足が補えるとしていたのである。このようなアメリカ軍のスリム化、機動化、迅速展開を指向するブッシュ政権の世界的な米軍再編成政策はPMCの市場拡大に寄与する結果となる。

軍事費削減計画をさらに推進したのがオバマ政権である。オバマ政権では米軍のイラク、アフガニスタンからの早期撤退政策を推進したが、撤退後の治安維持に大きな問題が残った。現在、イスラム原理主義を標榜して台頭してきたイスラム国の存在はその典型と言えよう。オバマ政権では2013会計年度から2021会計年度までに最大1兆ドルの国防予算削減を行うと公言している。この事からすれば、今後もアフガニスタンやイラクでの治安維持、更にはイスラム国との闘いにおいてPMCの活動領域が大幅に広がる事は容易に想像できる。

次号は現代の戦争ビジネス組織としてPMCの事業内容とその問題点を吟味し、日本企業がPMCを活用するための具体的提案を検討してみたい。

 

<<バックナンバー>>
2015/4日本の海外における危機管理の現状と対策 第三話 海外進出企業の危機管理はPMC活用が鍵
2015/3日本の海外における危機管理の現状と対策 第二話 自己責任と政府の責任逃れを検証
2015/2日本の海外における危機管理の現状と対策 第一話 ISが後藤氏・湯川氏を殺害、著しく遅れている日本のインテリジェンス
2015/1安倍政権の長期化で本格化する「戦後レジームからの脱却
2014/12イスラム国の成立と中東の情勢 第三話 日本国民からは見えづらいイスラム教の本質
2014/11イスラム国の成立と中東の情勢 第二話 イスラム国の過激思想に各国の貧困層や差別待遇を受ける若者の一部が共感
2014/10イスラム国の成立と中東の情勢 第一話 過激派ゲリラの域を超えたイスラム国(IS)
2014/9ウクライナ情勢とエネルギー問題 第4話 日本は欧米と共同歩調を取りながらも今秋プーチン大統領の訪日は大歓迎
2014/8ウクライナ情勢とエネルギー問題 第3話 マレーシア航空機撃墜事件における関係国の思惑
2014/7ウクライナ情勢とエネルギー問題 第2話 ウクライナ問題の根底にある西側のエネルギー戦略
2014/6ウクライナ情勢とエネルギー問題 第1話 ウクライナとロシア長期に亘る歴史問題と西側諸国の対露政策
2014/5タイ反政府運動の実態、第4話長期化する政治対立の原因、タクシン政治の明と暗
2014/4タイ反政府運動の実態、第3話タイ近代化過程で代表的且つ対照的な二人の政治家、軍人出身のピブン氏と官僚出身のプリディー氏  
2014/3タイの反政府運動の実態、第2話タイ国近代化と政治プロセスにおける「国王」の存在
2014/2 タイの反政府運動の実態、第1話 対立軸の中心にあるのは王室の存在
2014/1 第二次安倍内閣発足直後に発表された論文から紐解く外交の目的と現実性、第3話
2013/12第二次安倍内閣発足直後に発表された論文から紐解く外交の目的と現実性、第2話
2013/11第二次安倍内閣発足直後に発表された論文から紐解く外交の目的と現実性、第1話
2013/10シリアの化学兵器問題から見える大国アメリカの求心力低下
2013/8 北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第4話
2013/7北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第3話
2013/6北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第2話
2013/5北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第1話
2013/4中華思想とこれからの中国、第4話
2013/3中華思想とこれからの中国、第3話
2013/2中華思想とこれからの中国、第2話
2013/1中華思想とこれからの中国、第1話 
2012/12 日本と韓国の「本当の姿」
2012/11/01「反日を貫いて生き残れるか 韓流経済が抱える深い影」
2012/10/01女性が開き 男が動く世界が注目! 新時代を告げるミャンマー経済
2012/9/01ミャンマー•ビジネス参入の為の“重要事項”
2012/08/01ホルムズ海峡封鎖を覚悟した 米国のエネルギー戦略と日本
2012/07/01脱原発には スーダンの石油が必要になる理由
2012/06/01 良質な石油が眠るアフリカで PKOがする仕事
2012/05/01北朝鮮のミサイル発射に潜む「中東」の核事情 



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