「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師



今や国際政治の主役に躍り出たプーチン大統領 第一話


国際舞台でキープレイヤーに復活したプーチン


◎米露の呼びかけでシリアの内戦が停止

 現地時間2月27日午前零時(日本時間27日午前7時)、アメリカ・ロシア協同の呼びかけで2011年に始まったシリア内戦停止が発効した。これは主としてロシアとイランが支持しているアサド政権側とアメリカ及び、サウジアラビアが支援する反体制派の主要組織で作る最高交渉委員会傘下の自由シリア軍やイスラム軍、クルド組織による大規模な停戦となる。報道によると、2月28日現在小規模の爆発音などがするものの、おおむね静寂だと言う。しかし、この停戦の枠組みは脆弱で、一部地域では反体制派がアサド政府軍の攻撃を受けたとの報道もある。一般に停戦が発効する直前直後には双方ともできるだけ停戦後にあるであろう交渉、もしくはそれが破綻した時に切るカードを増やすという思惑で、激しい攻勢に出て相手を弱体化させ、その勢力範囲を確保しておこうとする。従って、停戦が実行された時が最もハイテンションになる時期である。停戦後、表面上は静かになるが、通常は特殊部隊が出動し隠密軍事行動に出て破壊工作を行う。この時期、その国の持つ軍事組織の底の厚さが問われるのである。だから停戦後が実質的なせめぎ合いとなるわけだ。

 アサド政権は停戦には合意したが、ISなどイスラム過激派への攻撃を続行する意向を明確にしている。問題は停戦の対象外とする「テロ組織」とはいったいどこを指しているのかである。例えばイスラム軍、アメリカは彼らの存在を自由シリア軍と同等に反体制派だと認定しているが、アサド政権とロシアはISやアルカイダ系の武装組織ヌスラ戦線と同等なテロ組織として位置づけていることから、停戦の対象とはしていない。この一点をとっても今後停戦が継続していく保証は何もないのに等しい。アメリカとロシアは作業部会などを設置して空爆できる地域を特定するとしているが、ロシア軍がイスラム軍等への攻撃を続ければ、必然的に反体制側が巻き添えを食らう事となり、反体制側が反発して停戦どころの話ではなくなるだろう。

 思い起こせば、こうしたロシアのやり方は親ロシア派支援で見せたプーチン大統領のウクライナ介入に酷似している。今回も同様に、プーチンはラブロフ外相に政治交渉をさせ、事態の解決を長引かせて時間を稼ぎ、その間に戦場で特殊部隊などを使い、攻撃を激化させて占領地拡大などで既成事実化し優位性を確実にする、というしたたかな戦略を採っていると見てよいだろう。


◎度重なるオバマの失策

 これに対して、オバマ大統領のシリア戦略は迷走する一途である。プーチンが自信を付け、軍事的に瀕死状態であったアサド政権を復活させたのはオバマ大統領の失策にその原因がある。オバマ大統領はアサド政権が化学兵器を使用した場合、軍事攻撃をすると大統領自身がレッド・ゾーンを設定した。が、実際に化学兵器の使用が明白になった途端に腰が引け、軍事行動を開始するには議会の承認を得る必要があると、軍の最高司令官である立場を放棄。プーチンが発案したアサド政権を使ってシリアの化学兵器を破棄する妥協案に乗っかってしまった。この時点でオバマの大失態は化学兵器廃棄のためにアサド政権と政府軍の存在を正式に認定し、政権の存続を認めてしまったことにある。このため、アサド政権打倒を目指して政府軍を追い詰めていた反体制派は大混乱に陥った。ここにロシアが介入する余地ができ、プーチン大統領がシリア問題の主要プレイヤーになってしまったのである。

 その後もオバマ大統領の失政が続いた。彼は反体制派により強力な武器を供与するというヒラリー・クリントン国務長官(当時)の意見具申を退けたことに加え、シリア軍機の空爆を阻止する飛行禁止区域設定を求めたトルコなどの助言も聞き入れなかった。もし、イラク戦争後に実施した飛行禁止空域を設置し、常時パトロールをしていれば、ロシアとしても簡単に空軍機を入れる事は出来なかった。ましてや24時間で200回もの空爆を実行するような大規模介入はあり得なかったはずである。


◎オバマの内向きな政策がプーチンの復活を助長

 オバマ大統領はシリア内戦を「交渉による解決」で収めようとした。が、内戦を逃れて、ヨーロッパに押し寄せる難民問題は今やEUのみならず、西欧世界の分裂さえ招きかねない状態であり、早急な解決策が切望される。オバマ大統領は9・11米本土同時多発テロの報復として始まったイラクとアフガニスタンの戦争から、アメリカ軍を撤退させることを選挙公約として大統領に当選した。従って彼の政策は基本的には内向きであり、軍事的な成果を縮小する傾向が目立つ。オバマ政権はアメリカ軍が退いた後の軍事的、政治的空白をどのように埋めて混乱を防ぐかという精緻な方策はほとんどとれなかった。これの弥縫策としてシリアの反体制派に5億ドルを与え、対IS部隊を創設しようとしたが、これもあっという間に挫折。膨大な武器と資金が過激派テロ組織に流れてしまったのである。現在オバマ政権が推進している「アジアへのリバランス」政策も「失敗した中東から逃げ出すための口実」とさえ言われている状況だ。この間隙をぬったのがロシアのプーチン大統領で、まさに中東の混乱を収め、ヨーロッパ難民問題解決の根本的解決に取り組んでいる国際政治上の重大プレイヤーとして復活した。ちょうど2年前の2014年3月、クリミア半島のロシアへの併合を強行した当時のプーチン大統領は独裁者ヒトラーになぞらえられ、アメリカを始めとして日本を含む西側諸国が厳しい経済制裁を敢行。ロシアは国際社会から孤立していた。現在、この事を口にする者はもはや誰もいないと言ってもいいだろう。プーチン大統領はどのようにして世界の孤児から国際社会に復帰し、世界政治の重要人物に変身する事ができたのか。次号はその戦略について分析してみたい。




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