「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師



援助国としての中国の限界
ハード・ソフトの両パワーが育たない理由 第一話


自国第一主義の援助が仇となり各国とのトラブルが表面化


◎アウンサンスーチー女史が自ら中国と対峙

 昨年11月の総選挙でNLD(国民民主連盟)が選挙で圧勝。その4か月半後の今年3月30日新大統領の就任式が行われ、ミャンマー(ビルマ)では民主化を目指した新政府が正式に発足した。外国籍の家族を有する者が大統領に就任する事を禁じる大統領資格制限条項が憲法にあるため、NLD党首アウンサンスーチー女史の大統領就任は実現せず、腹心の党幹部ティンチョ―氏が大統領職に就く事になった。と同時に世界中が関心を持ったのがアウンサンスーチー女史の入閣問題である。そしてふたを開けてみるとなんと、彼女が4つの閣僚を兼任し、更には大統領より上の立場と見られる国家顧問にもなった。これではまるで民主主義とは正反対の独裁主義に近いのではないかという声も世界のあちこちのメディアを通して流れたのである。

 彼女が付いたポストは外務大臣、大統領府大臣、教育大臣、そして電力・エネルギー大臣。外務大臣ポストは軍が独占している国防、治安、国境担当大臣と同等の立場にあり、外交の面から軍と直接交渉ができる唯一のポスト。大統領府大臣は大統領と常時ペアを組んで政策を立案し、計画を実行する官僚をまとめる部署、教育大臣は女史が予て唱えていた民主主義を育て守り抜くために重要な閣僚ポストである。が、電力・エネルギー大臣の役職は彼女のこれまでの経歴や実績、イメージからは程遠い。なぜ彼女があえてこの職に就いたのか、実に興味深い。アウンサンスーチー女史がこのポストをわざわざ選んだのは中国の存在を考慮した選択として考えればわかりやすいだろう。つまり、ミャンマーと最長の国境線を有する中国との関係に於いて、最も微妙な問題である電力・エネルギーに関する事柄を彼女が直接に取り扱いたいと言う意思の表れである。前軍事政権時代中国はイラワジ川にダムを建設し発電所を開設。工事費用等は負担する代わりに、運営権を中国が所有し、生産された電力は中国に送ると言う計画があった。その中心になったのがカチン州にあるミッソン・ダム建設である。少数民族カチン族の村の多数が水没する事になるが、軍が強制的に立ち退きを迫るという人権問題と共に環境破壊に配慮しない工事計画であった事も加わり、ミャンマー国民の間に激しい反対運動が起きた。アウンサンスーチー女史も反対運動の中心的な役割を果たしていたのである。軍事政権であったテインセン大統領もこの動きには逆らえず、独断でダム建設を中断してしまった。この事がきっかけとなり、軍事政権は崩壊の道を辿り、今回のNLD政権の誕生につながるのである(同連載2012年9月号参照)。 中国は新政権発足後も粘り強く工事再開を働きかけている。これにいかに対応するか、アウンサンスーチー女史は自らの手で中国と渡り合う事を望んだ上でのポストだと考えるのが蓋然性がある。元々このイラワジ川開発計画は中国がミャンマーの軍事政権に援助をする事で成立した不平等なものであり、相当乱暴な建て付けのものであった。


◎「内政不干渉」と中国人のモラル低下がアフリカ諸国の住民の反発を招く

 中国はアフリカのスーダンでも石油開発を巡って同じような事をやり、油田地帯から、住民を強制排除する政府軍側に武器などの援助を行い、スーダン製の石油を直接手に入れようとしていた(同連載2012年6月号参照)。もちろん石油掘削プラントなどでは中国側が労働者(中国人)を含めて全面支援。中国は「内政不干渉」を外交方針の中心に据え、如何に国民を弾圧的に支配する政府であろうとも、中国向けの資源輸出ができるように仕立て上げて兵器その他をふんだんに援助する自国第一主義の援助を行ってきた。この様に、中国の援助の実態は内政不干渉主義を盾に、資源が存在する国の政権に軍事援助を行い、その国内が如何に混乱しようとも感知せず、資源を運び出すための道路建設には大量の中国人労働者を送り込む。その結果、中国が援助する国や地域では忽ちの間に中華料理屋や、労働者相手の質屋・歓楽街が出来上がり、漢字の看板が乱立するという情景がスーダンのみならずアフリカ諸国で見られるようになったのである。更には中国人労働者の間に像を密漁して象牙を中国に密輸する者、資源を盗掘して勝手に持ち出す者もあらわれ、住民に殺害される中国人が多発しているところもある。


◎高速鉄道計画で約束を反故にされたインドネシア

 つい最近大きく採り上げられたのが、インドネシアでの高速鉄道建設計画問題である。インドネシア政府はジャカルタ‐バンドン間約140キロメートルの区間に高速鉄道の建設を計画。それに対応して日本は現地の地質調査を行い、具体的な事業計画案を提出していた。しかし、インドネシア政府は高速鉄道にかかる費用が膨大な事から計画を見直すと日本側に伝達。その間中国が割り込む形でインドネシア政府の債務保証を求めない、必要な資金も中国側が用意するという破格の提案をしてきた。インドネシアはこれを真に受け、精査も十分でないままこの提案に飛びついてしまったのである。中国の計画書の中には日本が行ったボーリング調査の資料や、顧客調査のデータなど日本と同じ数値が盛り込まれており、更には中国が実際に調査を行った形跡もない事から、インドネシア政府内に日本の内部資料を中国に渡した者がいるとの報道もなされていた。中国が事業を請け負うに至る経緯はインドネシア政府内部も含めて疑惑に満ちたものであったが、今年に入ってから中国は債務保証をインドネシア政府に求めてきた。最初の約束は完全に反故にされてしまったインドネシア政府は動揺したが、さらに追い打ちをかけるように、中国側は建設に必要な書類のすべてを提出しておらず、既出書類も中国語で書かれたものが大半であった事が発覚した。インドネシア政府はインドネシア語か英語の文書を再提出するように差し戻した。これらの騒動の渦中、1月21日に行われた起工式には高速鉄道の建設の許可を出す担当大臣が欠席するなど前代未聞の状態となっている。インドネシアでは以前、素晴らしい仕様書と有利な条件の下で中国製のプロペラ旅客機MA60(中国名は新船60)を導入した事があった。この飛行機は墜落や多くのトラブルを起こす欠陥機であった。インドネシア国内では2011年5月、墜落事故を起こして25名が死亡。このほかにも車輪が出ず、胴体着陸を行った際に胴体が2つに折れるなどの事故も発生。先進国での導入実績は皆無で、中国の航空機専門家も設計や製造の稚拙さを指摘しており、中国国内でも危険な機体との認識が広まって四川航空などは運航を取りやめた程だ。インドネシア政府も現在この機種を購入禁止機種に指定している。


◎中国が援助する鉄道計画の多くが頓挫

 インドネシアばかりではなく、中国の援助による鉄道建設計画は世界各地で中途半端な形で終わるものが多い。例えばメキシコではメキシコシティ‐ケレタロ間約210キロメートルの高速鉄道計画がメキシコ政府の決定で発注が撤回され、計画そのものが無期延期されている。中国側の強硬な売り込みの中で贈収賄疑惑が表面化したのが問題となったからである。フィリピンではマニラ市郊外での鉄道建設(南北通勤鉄道計画)を途中で投げ出して撤退。その後日本のODAで工事が続行される事になった。タイでも中国との共同で鉄道施設計画があったが、中国側が提出した建設費の見積もりが異常に高すぎ、計画が進まなくなっている。

 これらの例を見ていくと、中国が手掛けた海外での鉄道建設や貿易に関するトラブルは提出書類の完成度が低かったり、杜撰な資料しか作成できなかったり、金利や建設費用の負担額が当初の予定より増える事など、基本的な事柄ができていないところにあると言えるだろう。換言すれば、契約を含めてモラルの面で信頼関係を構築できないというソフト・パワーが成熟していないところにある。これは中国が援助国としての限界に近付いている事を示している。その根幹には経済的な地盤沈下に加えて、共産党政権下ではソフト・パワーが育成できていなかったという構造的な問題の存在が挙げられるだろう。次回はその点にアプローチしてみたい。



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