「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師



米トランプ氏が突きつけた「日本の核武装」第一話


核保有三カ国を隣国に持つ日本の現実


◎トランプ氏の発言内容はアメリカ人大衆の本音


アメリカ大統領選共和党候補ドナルド・トランプ氏のインタビューで、日本や韓国の核保有を示唆する発言があった。トランプ氏は日本や韓国の安保ただ乗り批判を展開し、「同盟国が自力で国を守ればアメリカはもっと豊かになれる」とアメリカン・ファースト論を貫く姿勢を訴えて来た。核保有容認論はその延長線上にある。メディアの多くは外交や核政策、朝鮮半島を含む東アジアの情勢が分かっていない…と批判はしたが、彼の発言はアメリカ人大衆のホンネを代弁しているとされ、正式な次期大統領候補の発言でもある。トランプ政権が樹立されれば、本格的に日本の核武装を要求されるかもしれない。現時点で日本の核武装はあくまでも仮想の論議だ。が、これまであまり本格的に核武装について、論議した経験のない我々日本人が新たな国際情勢の変化に対応するための準備の一つとして、日本を含む東アジアの核兵器問題と最近の核を巡る国際政治の方向性を探ってみたい。まず日本の核武装について問題を提議したい。


◎アジア圏に集中する核保有国の現実

 日本の核武装の問題を考える時、日本を中心に置いた世界地図を見ると問題の所在がどこにあるか良く分かるはずだ。まず、日本列島の東側に広がる太平洋を挟んで世界最初の核武装国であり、現実に日本を核攻撃したアメリカがある。2009年の時点(以下同)でアメリカの核弾頭数は合計で9400発。アメリカ大陸を超えてさらに東に回れば、イギリスには185発の核弾頭があるし、フランスも300発の核弾頭を保有している。ロシアには13000発、中国には240発、インド60発から80発、パキスタン70発から90発、北朝鮮も10発以下だとされているが核保有国である。あとは保有の有無には答えないが、イスラエルも核保有の疑いが濃い国で80発前後を保有しているのではないかといわれている。

 ここで挙げた核保有国に印をつけて行けば、驚くべきことに合計8カ国の核保有国のうち4カ国、実に半数がアジアに存在している事が分かる。しかも、中国、北朝鮮、ロシアの3カ国の核保有国が日本の周辺にある恐るべき事実に気づくだろう。当然のことながら、日本周辺の核保有国は各国それぞれの戦略的な考えに基づいて核兵器の配備を行っている。問題はこれらの核保有国が日本にとって脅威なのかどうかだ。それによって日本の核武装問題の方向性が決まってくる。



◎日本にとって安全保障上の「脅威」とは

 この種の論議で最も説得力があるのが、「能力」と「意思」を検証する整合性のある論理展開だろう。例えば、日本の安全保障を考える場合、基礎となるのは、日本に対する「脅威」とは何かを考えてみる事である。この考え方の基礎となるのは、相手の能力と意思を推し量る事だ。能力だけを見た場合、日本にとって最大の脅威は、世界最強の軍事力を持つ米軍である。従って、戦略の第一優先順位はどんな事があっても米軍とは戦わないという事に尽きる。言うまでもなく、日本はアメリカと「日米安保条約」を結び、国内に基地を置いて、米軍そのものを取り込んでいる。従って、米軍は日本に脅威となる「能力」は十分にあるが、安保条約に基づく同盟関係にあり、米国には日本を攻撃する「意思」が存在しない。故に、総合的な判断として、アメリカは日本にとって脅威となりえない―という結論になる。

 逆に中国の現状は、「能力」は米軍に比べてはるかに劣ってはいるが、毎年凄まじい勢いで軍事費を増強している。が、その透明度は極めて低く、軍拡を行う目的も見えてこない。その上に立って尖閣諸島領有権を主張し、領海侵犯などの様々な軍事行動、更には南シナ海でのパラセル諸島、スプラトリー諸島を巡る、ベトナム、フィリピンとの領有権争いなど、軍事力を背景とした拡大戦略をとっている。この間、中国は軍事的な経験を積み、能力も向上の一途である。従って近い将来「能力」そのものが日本にとって脅威となってくる。その上、全世界に向けて反日宣伝を行い、中国の国内では反日教育を強化し、歴史問題、自衛隊の集団的自衛権問題をも含めて強引な日本脅威論を展開している。これらを考慮に入れれば、現在は具体的、且つ明確な軍事行動はとられてはいないが、総合的判断として中国は近い将来「能力」と「意思」の両観点から日本にとって脅威となりうると判断できる。

 日本は米国と同じ価値観を共有し、米国の世界戦略にとって日本の技術力や地政学的な役割は極めて重要である。そこに日米が共同する目的とメリットが存在する。中国は中国共産党の一党独裁を維持するために、抗日戦争を戦い抜いた共産党の功績を中心に置いた国内政策を展開し、反日を政治利用することで政権の延命を図ってきた。そこが中国の対日政策の核心的部分であり、共産党政権が続く限り軍事行動も含めて反日政策をとる事が中国にとってメリットであり、目的となりうる。北朝鮮も建国のストーリーは中国と似たり寄ったりの抗日戦闘が基本となっており、日本敵視政策が金王朝延命の基本政策である事は言うまでもないだろう。

 このように考えることは、行為を行うことによって行為者自身にどんなメリットがあるのかを明確にしていく事にもなり、それへの対応策も含めて、安全保障や危機管理に於ける基本中の基本とされる手続きでもある(もっとも、状況の変化によって目的やメリットも変化していく。そのことを織り込んだ論理展開が必要となってくるのは言うまでもない)。この基本に沿って見て行けば問題は自ずと明確になってくるはずだ。



◎米国の核の傘下という現状だけで日本の安全を守れるか

 現在日本の核戦略は日米安保条約によってアメリカの核の傘の中に入るという政策をとっている。つまり、日本に核攻撃をかける国があれば、アメリカは自国に対する核攻撃と見做して核報復をする事になっている。これは核政策としては現状に沿った合理的な物だというべきだろう。が、ここでもう一度地図を見てみよう。ここに見える日本の姿はユーラシア大陸にへばりつくようにちんまりと並んでいるごくごく狭い国土でしかない。もし、日本に対して核攻撃の意図と意思を持った核保有国が日本を攻撃した場合、壊滅的な被害を与えるには3発ないしは5発もあれば十分だろう。先制攻撃を受ければ、アメリカが報復核攻撃をかけたとしても、その時には日本国はすでに消滅してしまっている可能性が極めて高い。従って、アメリカの核の傘は実効性を持たない砂上の楼閣となってしまわないかとの不安感を覚えるのも自然だろう。

 更に言えば、1991年以降、アメリカはアジア地域に展開していた陸上配備の核兵器を完全に撤去し、それ以降もアジアに配備していた核兵器の量を75%削減している。その中で、狭い国土の日本にとって核攻撃抑止目的の目玉とされていたいくつかの重要な兵器、例えばトマホーク巡航ミサイルも2010年に撤去されている。アメリカでは新たなミサイル搭載用核弾頭を製造する事をやめており、これら一連のアメリカの核戦略のベクトルが北朝鮮などを核兵器開発に走らせたとの分析もある。


◎日本の核燃料サイクルとこれまでのアメリカの本音

 この様な状況の中で、日本の現状は核兵器を持たない国としては最大かつ完結した核燃料サイクルを確立。すでに核弾頭1000発分のプルトニュウムを保有しているのだ。日本が核兵器の保有を決断した場合、製造までかかる時間は半年から10年以上とまちまちに推定されているが、核兵器開発能力がある事は間違いないだろう。ミサイル技術に至っては様々な宇宙開発を自前のロケットで実施している実績がある。兵器としてのロケット技術の開発にもさほど時間を要しないだろう。

 アメリカは日本を押さえつけて常に優位を保とうとする対日戦略上、日本独自の核武装は望んでいない。が、先に挙げたトマホーク巡航ミサイルの引き上げなどに象徴される核の傘の希薄化が進む中で、日本を含めアジアのアメリカ同盟国の不安はますます大きくなるのも事実である。この様な状況では日本の選択肢としては別の傘の持ち主を探すか、中国になびくか、現実に目をつぶって核兵器の存在を無視するか、あるいはいつでも核兵器を持ちうることをちらつかせて、そうしてほしくないアメリカに現状に沿った核の傘を差し掛けさせるという事が考えられる。

 さらにこの問題点を深化させるために、次回では今年現職大統領として初めて広島を訪れたオバマ米大統領の国際政治上の意義を確認しつつ、核武装の問題を吟味してみたい。




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