「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師



米トランプ氏が突きつけた「日本の核武装」第二話


日本がニュークリア・レディ国を目指した経緯と現状


◎安倍政権は核保有・使用を合憲と判断


 日本は核武装をするのかしないのか…これに関して安倍政権は実に明快な判断を示している。今年4月1日の閣議で「憲法9条は一切の核兵器の保有及び使用を禁止しているわけではない」とする政府答弁書を出した。併せて「非核3原則により、政策上の方針として一切の核兵器を保有しないという原則を堅持している」との見解を示した。これは3月に野党議員から提出された質問主意書(政府見解を質す文書)に対する答弁書である。これに先立つ3月18日に開かれた国会の予算委員会で、横畠裕介内閣法制局長官が質問に答えて「憲法上、あらゆる種類の核兵器の使用が禁止されているとは考えていない」と答弁した事を受けての答弁書である事は言うまでもない。

 これまで政府は核兵器の保有は憲法9条に違反しないという立場を採って来た。が、今回の答弁書ではそれから踏み込んで核兵器の使用も含めて合憲であるとの立場を初めて明確にしているのだ。核兵器を保有する事も使う事にも憲法上の制約はないが、非核3原則を国是としてきている以上、現状では政策上の問題として核兵器を保有していないだけの事だ…つまり、この答弁書の趣旨はいざとなれば非核3原則を破棄して核兵器を保有し、使用する事も合憲であり、政策上の選択肢として核武装はあり得ると言っているわけである。この答弁書の重大な意味はマスメディアではほとんどスルーされて、さしたる話題にもならなかった。本来ならば、国会を十重二十重に取り囲むデモ隊が永田町界隈に押しかける事態があってもおかしくはない程の重大な決断がなされていたにも拘らず、野党は高市総務大臣の「電波法解釈問題」で大臣答弁の上げ足取りに狂奔していたのである。


◎既に建前だけの「非核三原則」

 戦後日本は唯一の被爆国として非核3原則を国是に掲げ、アメリカ主導の核不拡散体制を支持してきた。「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という3つの原則は佐藤栄作内閣で提唱され、その功績もあって佐藤首相はノーベル平和賞を受賞している。その後の沖縄返還や核拡散禁止条約の批准に際して非核3原則を守る旨の付帯決議が国会などで採択され、歴代内閣はこれを堅持した事になっている。しかし、この事は軍事的合理性から考えてもあり得ない事である。まず「持ち込ませず」‐米軍の原子力空母や原子力潜水艦がハワイやグアムから佐世保や横須賀に向かう場合、出港時に積まれていた核兵器が無寄港で日本に到着した時に無くなっているはずがない。アメリカ艦船が日本に核兵器を持ち込んでいる事はアメリカ軍関係者には周知の事実で、ライシャワー元駐日大使は「日本政府もその事は承知のはずだ」と証言している。日本政府は否定しているが、その根拠となるのは「核持ち込みは日米安保条約で事前協議事項と定められている。従って、これまでにアメリカ側から事前協議の申し込みがないので、核は持ち込んでいない事になる」という論理だ。これで日本政府は何十年も国会論議を乗り切っている。核を持ち込んでいるかどうか、正面切ってアメリカに問い質せばいいのだが、日本政府はそれをやらない。聞けば国民に説明しなければならないし、YESと言われれば、非核3原則が壊れるからだ。この点から見れば、核を持ち込ませずの原則はファンタジーであり、与党野党共に日本の政治家は何十年も国民を欺いている事になるだろう。


◎その気になれば核の製造は可能

 その一方で日本政府は実に巧妙な核抑止策を創り上げようとしていた。非核3原則の建前を巧妙に使って「ニュークリア・レディ(Nuclear Ready)国」を目指したのである。日本の核兵器開発は先の大戦中に始まった。理化学研究所の仁科研究室で相当なところまで進み、日本国内でのウラン鉱脈探査まで行っていたのである。戦後になってからも1960年代半ばから国連安保理常任理事国5か国のみが核保有を認められ、他の国の核開発を禁止するNPT(核不拡散条約)が論議されるようになると、時の外務省高官が同じく敗戦国の西ドイツ大使館関係者と箱根で密会し、核兵器開発に関する意見交換をしている。そして日本で核兵器が造れるかどうかを当時の原子力関係者に検証させていた。現在では原爆の製造方法もネットで簡単に調べられるが当時は情報が限られていた。マンハッタン計画を復習し、実験を行いながら原爆製造のプロセスを解明して日本の状況の中で核兵器製造の目安を付けた。実際には核兵器を作ったわけではなくて、ノウハウや製造施設的な障害の有無を確認。その結果、当時の日本でも製造可能であるとの結論を得たと言われている。

 この様にして歴代自民党政府はリアル・ポリティックス(理念よりも現実の力関係や利益を重視した政治)という立場で安全保障上の問題点を検証し、日本の核武装の可能性を模索して来た。その目指すところが先に挙げたニュークリア・レディ国だ。核保有国ではないが、核兵器を造るために必要な条件が全て揃っていて、その気になれば90日以内に核保有できる核準備国になる事であった。ニュークリア・レディ国であれば実際に核兵器を持たなくとも核抑止力の効果を得られる。日本を核で脅す国があれば日本を核兵器製造に追い込み、逆効果になるという意味で抑止力になるという発想である。


◎高速増殖炉やプルサーマルを続けるもう一つの理由


 核抑止力を持つニュークリア・レディ国としての視点で日本の原子力政策を振り返ると、エネルギー確保と表裏一体であった事が分かってくる。例えば使用済み核燃料からプルトニウムを抽出して循環させていく核燃料サイクル。これが実現すれば日本はエネルギー問題から解放されるという事で、高速増殖炉やプルサーマル(プルトニウムとウランを混合した燃料を通常の軽水炉型原発で利用する事)の開発を国策として進めて来た。その一方で高速増殖炉やプルサーマルで使うプルトニウムを転用すれば核兵器の製造が可能だ。プルトニウムやその関連技術を持っていること自体が核抑止力となり、日本の安全保障にもなるというのが日本政府の長期戦略であり、20年以上稼働していない高速増殖炉もんじゅ型原子炉を、年間500億円もかけ乍ら維持しているのは将来的なエネルギー確保と共に安全保障上の理由があってからだと理解する方が蓋然性がある。

 この様な状態から、現在日本はドイツと共にニュークリア・レディ国として国際社会から扱われている。日本が貯蔵しているプルトニウムの量は国内外合わせて40トン以上にもなる。これは長崎型原爆なら1000発以上作れる量である。ただし、日本が国内に保有しているプルトニウムはプルサーマル用にウランと混ぜられており、基本的にはそのままでは核兵器に転用ができない。アメリカとの原子力協定でこの形状で日本が核燃料を保有しておくことが定められているからだ。これはあくまでも原子力の平和利用のために保有する事を強調したいがためで、いざとなったら分離は簡単にできると言われている。が、現状では高速増殖炉実用化の見通しは立っておらず、プルサーマル計画も福島原発事故以降は実質的に頓挫している。このような状況の下、プルトニウムを大量にため込む日本に対して中国が「日本はなぜ使い道のないプルトニウムを大量に抱えているのか」と、警戒する発言を国際社会で繰り返すようになった。冒頭にあげた安倍政権の核兵器の製造、使用共に合憲であるとの見解はニュークリア・レディ国としての政府見解であり、核抑止の効果を狙ったものであったと言えよう。次回は日本がもう1歩踏み込んだ核戦略を考えた場合に想定される国際社会の動きと、現実に進行している核開発と、新たな核武装国を志向している韓国など日本周辺国の動向を分析していく。





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