「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師


緊迫状態が続く朝鮮半島 第一話


見える軍事力より見えないサイバー空間を注視


◎米空母打撃群が朝鮮半島に接近

 アメリカが北朝鮮に対する軍事的圧力を急速に高めている。原子力空母カールビンソンを中核とする空母打撃群が朝鮮半島に接近したのに加え、4月25日の北朝鮮軍建軍記念日の4月25日には攻撃能力の高い原子力潜水艦ミシガンが突如姿をあらわし、釜山港に入った。後述するが、通常潜水艦は隠密行動を専らとし、姿を見せずに行動するがミシガンの露出は大きな意味がある。

 朝鮮半島周辺に展開しているアメリカの戦闘艦隊は、空母カールビンソンを中核とする空母打撃群だ。作戦時には通常空母1隻、駆逐艦2隻、巡洋艦、潜水艦、補給艦各1隻の計6隻で空母打撃群を編成して行動する。カールビンソンはニミッツ級空母3番艦で1982年に就役しており、現在はサンディエゴを母校とする第3艦隊に属している。満載排水量約10万1000トン、搭載航空機は戦闘用も含めて約80機、全長333m、全幅76.8mの巨大戦闘艦である。カールビンソンには80年代、初の佐世保寄港時に特別許可を得て2日間に亘り取材した事がある。その時艦内の小会議室で広報担当の中佐からブリーフィングを受けたが、彼の説明によると、カールビンソン1隻の持つ攻撃力は沖縄の嘉手納空軍基地と同規模であり、打撃群全体の打撃力は英仏などの中規模程度の国の打撃力に匹敵。「これほどの巨大戦力が、何時何処へでも必要に応じて移動し敵対勢力に即応できる体制を採っているのです」と誇らし気に言ったのだ。艦内では士官食堂でコーヒーを振る舞われ、広大な兵士用食堂、艦橋に上って航空隊の指揮官が詰めるエアボス・エリアなど可能な限りの艦内施設を取材する事が出来たが、横須賀基地から同行した少佐が目的場所に行くのに道を間違え「私はもっと小さな艦に乗っているのでこんな巨大艦はあまり得意ではありません」と言い、はにかみながら笑っていた。乗組員も自分の受け持ち区域以外はあまり足を踏み入れた事がなく、しばしば道に迷う事もある程だという。つまりカールビンソンを含むニミッツ級の空母はそれ程巨大で、あらゆる面で最も優れた戦闘能力を持つ。5月には横須賀のドックに入って定期修理中の第7艦隊所属のニミッツ級空母ドナルドレーガンの打撃群と日本海で合流し、朝鮮半島を挟む形で展開する事がほぼ確実である。更に、前述した原潜ミシガンはトマホーク巡航ミサイルを最大154発発射できる。これは通常30発発射できるミサイル駆逐艦の5隻分に相当する対地攻撃力だ。普段は海中で隠密行動をとり、めったに姿を見せない原潜がこのタイミングで韓国に寄港した意図は在韓、在日米軍、カールビンソンなどに加え、新たに戦闘能力の高いミシガンを派遣し、朝鮮半島周辺に大規模な戦力を蓄積している事をあえて見せた事にある。


◎米軍と自衛隊が緊密に連携

 この様に北朝鮮の出方次第では軍事行動に踏み切るという極めて分かり易いメッセージを送りながら、軍事的圧力を高めつつある米軍と自衛隊は緊密な連携を採り、海上自衛隊ではカールビンソンの北上に伴ってフィリピン沖から東シナ海、日本海と共同訓練を積み重ねている。自衛隊との訓練の主要課題は、イージス・システムの連携や防衛省内にある中央指揮所との軍事情報のやり取りなど、電子戦にかかわる事であると予想できる。特に北朝鮮のミサイル発射に関する電子情報を同時に共有して、ミサイル発射に対応するための精密な電子情報システムの構築が重要となってくる。

 例えば衛星が宇宙からミサイル発射を探知するのはミサイルの噴射熱が地上を焼いて熱を発するところを赤外線センサーで探知するのが基本的なシステムだ。液体燃料を使うロケットシステムならば発射と同時に探知ができるが、北朝鮮が「北極星2型」と名付けたSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)改良型は探知が困難になる。なぜならこのタイプのミサイルは発射台から空気圧その他の方法で一旦空中に飛ばし、固体燃料に点火して飛ばす方法だから地上の熱源を探知する方法では探知が難しく、ある程度の高度を得て噴射熱を補足する事になってしまうからである。こうなれば探知するまでに時間がかかり、探知してからミサイルの位置や飛翔方向、高度、スピードなどのデータ分析などの時間が短くならざるを得ない。ましてや情報を日米が共有しつつ、イージス・システムやパトリオットミサイルを組み合わせて迎撃するには相当綿密な連携が必要だ。



◎ミサイル防御はサイバー攻撃で対処

 北朝鮮との軍事的対立は、何はともあれ日本にとってはミサイル防御に尽きる。朝鮮半島での軍事的紛争は重大ではあるが、二義的な問題と位置づけされるべきだろう。日本を標的とした300発とも言われるミサイルが配備されてから10年以上たつが、日本は具体的な対処はほとんどできていなかった。その事を考えれば日本にとって具体的に見える実際の軍事力よりも目に見えないサイバー空間での戦いが重要となってくる。この視点で見ていくと最近実に不思議なことが起きつつある。今年に入って北朝鮮が発射したミサイルは6回。2月12日北極星2号を日本海に向けて発射し、3月6日には中距離弾道ミサイル・スカッドERを4発同時発射して3発が日本のEEZ(排他的経済水域)に落下、日本のメディアは北のミサイル技術の進歩を大々的に報道した。が、その後3月22日、4月5日、16日、29日と立て続けに発射したが何れも発射直後に墜落している。これら一連の発射失敗についてニューヨーク・タイムズ紙やウォ-ルストリート・ジャーナル紙を始め、欧米のメディアではアメリカ軍のサイバー攻撃によるものとする見方があった。特に4月5日の失敗直後、アメリカ政府高官が「今後はスカッドERへの対処は必要ない」との趣旨の発言が報じられ、アメリカ軍の目に見えない戦闘が成功しつつあることを印象付ける結果となったのである。


◎関係各国の思惑と今後の具体策

 北朝鮮は金王朝体制を持続させるには核兵器開発とそれを米本土に打ち込めるミサイル開発は絶対必要条件だと定めており、近頃日本のメディアで評論家達が盛んに口にするようになった6者協議を含む「対話路線」は北朝鮮に時間を与える効果しかない事はこれまでの結果で十分わかっているはずだ。北朝鮮のバックに立つ中国も、金王朝体制が崩れれば直接米韓軍と国境を挟んで対峙する事となり、それを避けるためには北朝鮮という緩衝地帯が必要である。アメリカにとってもこのまま時間が経過すれば北朝鮮の核小型化と米大陸本土にまで到達する弾道ミサイルが完成する事は確実だと見ている。このような硬直した情勢の中で、最もシンプルな解決策は金正恩と核兵器を切り離す事であろう。つまり、金正恩を抹殺するか、彼が核のボタンを押したとしてもそれが機能しなくなる方策を採る事になる。

 この状況を創り出すため、現実的にアメリカと日本が共同で動く方法の一つがサイバー攻撃による核兵器とミサイルの無力化である。北朝鮮のミサイル発射が相次いで失敗している事はそのエビデンスではないだろうか。次回はその証拠の一つと思われるアメリカ軍が長期に亘って着実に進捗させてきた「第3次オフセット戦略」(3rd Offset Strategy)の内容を中心に核兵器製造に対するサイバー攻撃の現状について触れてみたい。





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