㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



電力・ガス小売全面自由化による変化

伊藤 敏憲




電力小売が全面自由化されて半年余りが経過


2016年4月に電力小売が全面自由化されてから半年余りが経過しました。2016年9月末時点でのスイッチング件数は188万4千件、需要家総数の約3%を占めています。スイッチングは月約20万件のペースでコンスタントに進んでいますので、このままのペースで推移すると、来年3月末に新電力の契約件数は約300万件、総数の5%程度を占めるようになります。


地域間でスイッチング比率には大きなばらつきがみられます。全国平均を上回っているのは、東京電力の供給圏内の5.0%(16年9月末現在、以下同様)、関西電力圏内の3.7%、北海道電力圏内の3.4%だけで、他電力の供給圏内のスイッチング比率は2%を下回っており、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の圏内の比率は1%にも満たない状態です。新電力の供給力は限られていますので、新電力は、効率的に事業を展開できる大都市圏や料金水準が高い地域を中心に事業を展開していますので、このような地域差が生じるいのは当然と考えられます。


新電力を事業者別にみると、東京ガスが50万件、大阪ガスが20万件、北海道ガスが7万件をそれぞれ超えるなど、都市ガス会社が自らの供給圏内でお客様の数を積み上げており、最も割安な価格を掲げ、かつ、石油製品とのセット割引を行っているJXも多くのお客様を獲得できています。エネルギー会社以外では、東急電鉄グループが東急沿線で集客に成功しているのが目につきますが、これは「東急」が同沿線で高いブランド力を確立しているためと思われます。一方、自由化前から大々的に宣伝を行っていた携帯電話会社が期待されたほどお客様を獲得できていませんが、その一因は、携帯電話のお客様は個人、電気は家庭あるいは事業所と単位が必ずしも一致していないからと思われます。また、これまでの成果を見る限り、需要家は、知名度や価格で選んでいるわけではないと考えられます。


なお、東京ガス、大阪ガス、JXは、自前の大規模発電設備を運営しており、部分自由化時にすでに電気事業を展開していました。私は、電力小売が全面自由化される前に、新たに自由化される一般家庭や小口需要家向けの電力小売事業を中長期的に継続できるのは、①小売全面自由化以前においてすでに電気事業の実績がある事業者、②需要と供給を常に一致させる需給調整力を備えたコスト競争力のある電源を確保できた事業者、③ほぼ毎月お取引がある顧客を相当数抱えた電力会社や小売電気事業者とタイアップした事業者などに限定されると予想していましたが、これまでは概ね私が予想した通りの結果となっています。



来春には都市ガス小売が全面自由化される


2017年4月には都市ガスの小売が全面自由化されますが、関西電力、東京電力、中部電力、九州電力などの電力会社が家庭用・小口ガス事業への進出を表明していますが、電気に比べると新規事業者の数は限定される見通しです。ガス導管が接続された事業者同士で相互参入が起きる可能性がありますし、ガス事業者と提携して事業に参入する新規参入者がでてくる可能性はありますが、都市ガス業界の秩序を壊すような動きがすぐに広がるとは思えませんので、電気に比べると、小売全面自由化の影響は限定されると予想されます。


むしろ、事業制度が変わる都市ガスではなくLPガスにおいて大きな変化が起きる可能性があると考えられます。LPガス事業は、1995年度に実施された規制・制度改革で自由化されていましたが、需要家のほとんどがガス会社を選べるようになっていると理解していないからです。このため、これまで需要家がガス会社を切り替えるケースは限られていましたが、「ガスの小売自由化」をきっかけに需要家の選択によってLPガス業界の競争を促す可能性があるのです。すでに関東ではLPガス事業者間で顧客の獲得競争が起きていますが、LPガスは都市ガスと違って供給インフラによって事業領域が制約されることがありませんので、効率的に事業を展開できる都市圏を中心に競争が全国に拡散していく可能性が十分あると思われます。


 LPガス事業者の立場で自由化対策を考えると、お客様との関係を強化することにつきます。お客様の立場に立って、提供しているサービスの質を向上することができるかどうかが成否を分けるポイントになると考えられます。



電力・ガスシステム改革ではデメリットやリスクが生じる可能性もある


 電気事業、ガス事業ともに、現在進められているシステム改革では、小売りは全面自由化されますが、規制・制度改革をきっかけに事業全体の合理化・効率化を促して、事業の健全性を確保しながら、コスト削減を図る制度改正になっていません。国民にどのような形でメリットがもたらされるのか、デメリットが生じるリスクはないのか、現時点では判断できません。国内の石油業界や電力・ガスの自由化が実施された欧米諸国における先例からも明らかなように、規制・制度改革は、メリットだけではなく、デメリットやリスクが生じるリスクがあると考える必要があると思われます。



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