活ノ藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

エネルギー政策の議論を乱す世論のゆがみ


電力需給のひっ迫はまだ続く


関西電力の大飯原子力発電所の3号機と4号機が再稼働することになりました。これで関西地区の経済や暮らしに大きな影響を及ぼす計画停電や強制的な節電は回避することができそうです。しかし、大飯以外の原子力発電所は動かせるめどが立っていません。大半の原子力発電所で、福島原子力事故を踏まえて所轄官庁から求められた安全対策は完了しているのですが、再稼働の条件とされているストレステスト(耐性試験)や立地自治体の承認などの行政手続きが進んでいないからです。このため、日本全体では、まだ当分の間、電力の十分な供給力が確保できず、経済活動への悪影響が続く見通しです。


また、電力各社の収支が、代替燃料コストがかさんで著しく悪化しています。東京電力以外の電力各社は、当面値上げは実施しないと表明していますが、財務内容の劣化が進んでいますので、将来の電気料金の押し上げ要因になるのは避けられないと考えられます。

 

今年の電力不足は世論のゆがみによって生じた人災


昨年の電力供給力不足は東日本大震災による「天災」によるものでしたが、今年の不足は「人災」によってもたらされたと考えざるをえません。東日本大震災を踏まえた地震・津波対策の基準の設定が遅れたこと、原子力規制庁の発足が遅れたことなどにより、原子力発電所が再稼働できない状態が続いているのが、供給力が不足する主因だからです。


エネルギー、電力、原子力などの専門家の多くが、電力業界から研究の支援を受けていることへの批判や番組や記事の編集方針に合わないなどの理由でマスメディアから排除されてしまっています。一方で、電力会社や原子力に批判的な研究者や評論家、この分野に十分な知識をお持ちとは思えない著名人などのコメントがマスメディアやインターネットを通じて大量に流されています。残念ながら、それらのコメントの中には誤解や、過大、過剰、過小な表現が散見されます。原子力抜きでも必要な電力は確保できるといった実態と異なる需要見通しが流布されたのは、その典型的な事象の一つでしょう。また、一部マスメディアの原子力に対する偏向報道も目につきます。これらによって世論がゆがめられてしまっていることに大いに不安を感じます。


規制・制度を見直して、産業の構造や仕組みを変えるためには、事実に基づいた考察が必要です。そのためには当業者やその産業に詳しい専門家の意見に冷静に耳を傾けることも必要と思われます。

時間とコストをかければ、原子力に依存しないエネルギー需給構造を作ることができます。ただし、電力およびエネルギー供給システム全体の再構築が必要になりますので、10年以上の期間と10兆円単位のコストが必要で、電気料金の大幅な上昇、温室効果排出量の増加、海外生産シフトによる景気の悪化などが生じるリスクが高いことも理解することが必要でしょう。現在の世論は、事実に基づいた真意を表していないように思われます。

 

石油とLPガスの有効活用を議論すべき


ところで、私は、原子力問題が浮上する以前から、石油、石炭、LPガスについても活用を考えるべきと訴えていました。原子力の不足を補うために、天然ガスや再生可能エネルギーの導入を拡大するための制度がすでに実施されたり検討されたりしています。石炭については、老朽化した発電設備のリプレースを進められるように規制・制度が見直される見通しとなりました。ところが、石油とLPガスについてはもっと有効に活用すべきという声が高まってきていません。


石油およびLPガスは、資源国に地域的な偏在が見られることが問題視されていますが、オイルショックや湾岸紛争時を含めて、これまでに長期間供給が途絶えたことはありません。供給障害の発生に備えて世界各地で備蓄も行われています。


また、天然ガスでは非在来型の資源としてシェールガスやコールベッドメタン(CBM)の開発が進んでいることが話題になっていますが、石油においても、ブラジルやアフリカの沖合の深海部などの未開発油田、カナダに大量に埋蔵していることが確認されており開発も進められているオイルサンド、ベネズエラのオリノコ川周辺に確認されているオリノコタール、シェールガスと同様に頁岩層に含まれているオイルシェールなどを含めると埋蔵資源量は大幅に増加するとみられています。


石油、LPガスは、液体として取り扱うことができますのでエネルギー密度が高く、可搬性・貯蔵性が優れており、他のエネルギーに対して、供給の安定性、柔軟性が高いという特徴を備えています。自然災害に対する強さは、東日本大震災の際に実証されたはずです。


石油、LPガスをこれまで以上に有効に利用するためには、老朽化した設備・機器をエネルギー利用効率が高く、環境性能にも優れた新鋭設備・機器に更新する必要があります。原油やLPガスの価格が高騰して燃料費が増加していますので、設備更新のためのコストを回収できる期間が短くなっているはずです。石油機器は老朽化が進んでいますので、廃棄されてしまい、導入が支援されているガス系や電気系の設備・機器に置き換えらえてしまう可能性が高まっています。早急に対策を講じる必要があると思われます。

 

電気自動車の普及は電力需給のひっ迫につながる


充電機能を備えたプラグイン・ハイブリッドカー(PHV)が発売され、電気自動車(EV)も普及が加速してきましたが、実証試験の結果、PHVやEVに給電する際の時間帯別の電力需要が需要全体の動きと近似していることが明らかになってきました。この関係は急速充電インフラが普及するとさらに強まると予想されています。


これは、電気自動車の普及によってピーク電力需要が押し上げられ、そのために新たな発電設備が必要になることを意味しています。これまで、電気自動車の充電は、主に電力需要が少なく料金も割安な深夜時間帯に行われるので、負荷平準化に効果があるとされていたのですが、そうではないことが明らかになったわけです。

輸送用燃料としては、エネルギー密度が高く、可搬性に優れた石油系燃料のニーズが低下することはないと思われます。

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