㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲
仕切価格体系変更の歴史

伊藤 敏憲

 




様変わりした石油精製販売事業の収益環境


元売の石油精製販売事業の在庫影響を除いた実質収支は13年度(13年4月~14年3月)に赤字に転落しました。石油製品の国内需要が減少する中で、需給を引き締めきれなかったため、ガソリン、灯油など石油製品のスポット市況が悪化し、マージンが縮小したからです。


JX日鉱日石エネルギーが公表している石油製品の卸売価格変化幅と月次コスト変化から算出した13年度の卸売マージンの4油種平均は前年度に比べて㍑1.1円縮小し、近年では09年度以来の低水準となりました。ただし、全油種の卸売マージンが3月に回復に転じ、4月の4油種平均マージンは13年度比で㍑4.0円拡大し、週次改定値からみる限り5月のマージンはさらに良化しているもようです。元売によって卸売価格の決定方式は異なりますが、卸売マージンの変化幅に大きな違いはないと考えられますので、元売各社の月次収支は4月に黒字に転換し、5月はさらに改善していると推察されます。3月末までに精製能力削減されたことで需給が引き締まりやすくなったうえに、複数の元売が、生産の削減や市中買いに取り組んだ結果、スポット市況が急上昇したと考えられます。

 



元売各社が相次いで仕切価格体系の変更を発表


このような状況の下、元売各社は相次いで仕切価格体系の改定を打ち出しました。先陣を切ったのはコスモ石油でした。特約店によると、コスモ石油は、仕切価格の通知および改定日を、従来の金曜日通知・土曜日改訂から、月曜日通知・火曜日改定に変更するとともに、仕切価格を算定する際の基準価格を、原油価格や国内外の製品市況、需給動向、他社動向などを総合的に検討して決定する独自指標としたもようです。仕切価格は、独自指標100%、あるいは、独自指標とみなし通関CIF(出荷対象期間の10日前と30日前のドバイスポット価格により算出される)に基づくコスト指標との平均値に、ブランド料、ボリュームインセンティブ、運賃などの経費を差し引きした価格になるもようです。


昭和シェル石油も、5月から新しい仕切価格体系を導入したもようです。仕切価格の通知および改定日は金曜日通知・土曜日改訂から火曜日通知・水曜日改定に変更され、仕切価格を決定する際の基準価格は、これまでの国内製品指標のみから、国内製品指標を一部変更するとともに原油価格動向を要素に織り込むように見直されたもようです。


JX日鉱日石エネルギーは、6月に改定する準備を進めているもようです。通知・改定日を、金曜日通知・土曜日改訂から、水曜日通知・木曜日改定に変更され、これまで全国と地方のいずれかを選べるようになっていた指標価格は全国に一本化され、指標価格の算定方式もこれまでの国内製品市況中心から原油調達コストの変動を反映する方式に変更されるもようです。また、特約店規模格差、SS規模格差、当該週の取引数量の実績が勘案されるようになり、不評だった上限・下限価格は廃止されるもようです。


 出光興産も6月実施めどに改定を検討しているもようです。通知・改定日を金曜日通知・土曜日改訂から、水曜日通知・木曜日改定に変更され、仕切価格は、国内需給環境や海外製品市況、原油コストなどの指標を参照して決定する方式は変更されないものの、国内製品市況の指標が市況情報会社の製品価格情報から独自指標に見直されるもようです。



 公取委のガソリン卸売取引に関する指摘


公正取引委員会は、昨年七月に公表した報告書「ガソリンの取引に関する調査について」の中で、公正な競争の確保に向けた①系列内の仕切価格差、②販売関連コスト等の非開示、③業転玉の取扱制限の三点について、以下のように指摘しています。


 系列内の仕切価格差…元売は、仕切価格を一定のフォーミュラで取り決めている場合、特約店に対して、各構成要素の額を請求書等に明記する必要があり、価格体系やその構成要素の額を見直す場合には、交渉の機会を設けて特約店の意見に配慮する必要がある。また、1SS当たりの物流費に大きな差がないにもかかわらず特約店規模格差のインセンティブが設定されていることは不合理。

 販売関連コスト等の非開示…元売は、販売関連コストの額の決まり方について疑義が生じないよう、また理解を十分に得られるようにするため、特約店に対して説明および意見交換を定期的に行う必要がある。

 業転玉の取扱制限…元売が、系列特約店における業転玉の取扱いを一律に制限・禁止することは公正な競争環境の整備に悪い影響を及ぼしかねない。元売は、系列特約店における業転玉の取扱いを一律に制限・禁止するのではなく、系列特約店等の意見を踏まえ、系列特約店との間で一定のルールを策定する必要がある。



 今回の仕切価格体系改定に関する疑問


通知・改定日の週末直前から週中への変更は、実情を考慮した妥当な判断と思われます。

ただし、上記、公取委の指摘を踏まえると、基準指標の独自指標への変更、一部の元売が導入した特約店規模格差などには疑問を呈せざるを得ません。例えば、複数の元売が、これまで指標として採用していた民間の市況情報会社の陸上業転価格の価格決定過程の透明性・合理性に疑義があり、需給動向を反映した適正な指標とは言えず、このため元売および販売業者のマージンが棄損される厳しい状況が続いたと説明していますが、この解釈が正しいとは思えません。製品市況は、スポット市況は市場に提供されているもっとも安い価格によって左右される傾向がありますから、在庫をどれだけ圧縮しても、安値で供給する事業者がいる限り、是正することはできません。さらに、各地域を流通している最も安いスポット市況によって、その地域の小売市況は左右されるケースが多くなっています。需給動向を必ずしも反映しない国内市況が形成されていたのは、市況を壊すような価格で供給している元売があったからと考えるのが妥当と思われます。

なお、今回の一連の仕切価格体系の改定によって、卸売マージン、小売マージンがそれぞれどのように変化するかはまだわかりませんが、重要なことは、業界全体のマージンを是正し、是正によるメリットを元売、販売業者との間で適正に分配することと思われます。


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