㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

シェールガス・オイルの虚実

伊藤 敏憲

 

専門的な見地によらない情報が氾濫

アメリカで、原油や天然ガスの需給構造を変え、天然ガス価格の国内取引価格の急落を引き起こした「シェール革命」に関して、石油や天然ガスの専門的な知識をお持ちと思えない方々の著書が出版され、マスメディアなどを通じて実情を必ずしも正確に理解していないと思われる評論や見解が流布されています。今回のコラムでは、シェール革命に関する虚実を整理したいと思います。

 

l  シェールガス・オイルの埋蔵量は膨大

Ø  事実だが、商業生産をするための制約(水、公害問題、輸送手段)は在来型資源に比べて多いため、当面、大規模開発が行われるのは北米に限定される可能性が高い。

 

l  シェールガス・オイルのコストは安い

Ø  原油高を背景に開発が促進されていたブラジル沖などの深海油田、ロシア・中央アジアなどの内陸部や極地のプロジェクト、カナダのオイルサンドなどに比べると割安だが、中東などの開発条件の良い大規模プロジェクトに比べるとコストは高い。

Ø  ただし、シェール開発に必要な諸条件(技術者、掘削設備、フラクチャリングに用いる水、生産地と需要地を結ぶ輸送手段などの存在など)を満たしている北米では、国内の取引価格が輸入品に対して競争力があるが、他の地域では北米と同等のコストで生産し、需要地に供給することはできない。

Ø  コストが安いと評されている理由の一つは、天然ガスの井戸元価格と供給価格を同一視しているためと思われる。

 

l  北米からシェールガス由来のLNGを輸入できるようになると日本のLNG調達コストは大きく低下する

Ø  低コストで大量に貯蔵できないため輸送手段が確保された地域の需給のみによって市場や価格が決定される天然ガスと、開発コストが嵩むため長期契約が主体でスポット取引市場が小さいLNGとでは、需給構造や価格決定方式が大きく異なる。

Ø  仮に、北米において百万BTU当たり3ドルで天然ガスを調達できたとしても、液化プラント、輸送などのコストや事業者のマージンを加算すると、日本入着時のLNGコストは1トン当たり10ドルを超え、現状(原油価格1バレル110ドル)のLNGの輸入コストの平均と比べて3割程度割安に過ぎない。

Ø  しかも、商品先物市場では、アメリカの天然ガス価格は先高、原油価格は先安となっていることから、日本が北米からLNGを大量に輸入できる条件が整う3~4年後にはコスト差がさらに縮まる見通しで、天然ガス価格が百万BTU当たり6~7ドルに上昇し、原油価格が80ドル程度まで下落すると、北米からのLNG輸入コストは割安ではなくなる。

Ø  ただし、LNGの調達先の拡大による供給信頼性の向上や競争原理の活用によるメリット、現在、日本などアジアで主流になっている原油価格リンク方式に加え、先物市場等にリンクした値決め方式が広がることによる効果は多少期待できる。

Ø  仮に北米で天然ガス価格が低迷し続けたとしても、北米市場からの安定的に調達できる量から見て、日本のLNG調達コストが大きく低下する可能性は低い。

 

l  化学製品の原料をシェールガスにするとコストは石油系に比べて著しく安くなる

Ø  シェールガス・オイルの開発によって北米で取引価格が著しく割安になったメタンおよびエタンを原料にした、エチレン、メタノール、およびこれらの誘導品のコストはナフサなど石油系の原料に比べて割安。ただし、10分の1以下になるといった見方は過大評価。

Ø  一方、これまでほとんど利用していなかった原油生産の随伴ガスを原料にしている中東の石化プラントの原料コストはさらに割安。

Ø  芳香族化合物などはナフサなどの石油成分をクラッキングした方が割安。

 

l  日本のLPガス調達コストが下がる

Ø  すでに北米からLPガスが輸入されているが、現状の輸入コストは中東産とほぼ同じ。

Ø  ただし、北米からのLPガス輸出が拡大すると、サウジアラビアが原油価格などを参考に決定しているCPに準じた価格フォーミュラが見直されるきっかけの一つになる可能性がある。

 

l  日本企業はシェールガス・オイルに関わる分野の一部で独占的な技術を持つ

Ø  液化プラントなどに関わる分野の一部で日本企業が独占的あるいは高シェアを確保している技術が存在する。

Ø  ただし、市場規模が拡大すると状況は異なってくる可能性が高い。

 

l  燃料電池車など天然ガスを利用する新技術に追い風

Ø  北米の天然ガス取引価格が他地域に比べて低位で推移すると見込まれる。このため、北米において、天然ガス火力発電、天然ガスを原料にした化学工業、天然ガス自動車などの導入及び利用が拡大すると見込まれる。

Ø  ただし、燃料電池車の普及拡大を促す効果はあまり期待できない。燃料電池の普及には、技術・コスト両面で克服できていない課題が多く、また、水素製造においてエネルギー効率や環境負荷が天然ガスを燃焼する場合と大差がない天然ガス改質方式が主流となるとは思えないからである。

 

シェール革命は、北米のエネルギー事情には革命的な影響を及ぼしました。しかし、原油の増産ペースは緩やかになっており、天然ガスの生産量は2011年末以降ほとんど増加していません。一方、天然ガスの利用分野の一部で設備の増強が進められており、LNG輸出計画も複数進行していますので、今後、天然ガスの需給は引き締まり、取引価格は上昇すると見込まれます。日本など他地域に対する影響はさらに限定されるとみるのが妥当と思われます。




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