㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

ポスト高度化法は必要か?

伊藤 敏憲

 

精製能力の削減で収益環境の一時的な改善は見込めるが…

「エネルギー供給構造高度化法」(以下「高度化法」)によって、石油精製事業者が求められていた重質油分解設備の装備率(常圧蒸留装置の処理能力に対する重質油分解装置の処理能力の割合)向上に関する措置の期限が3月末に到来します。

昨年、コスモ石油の坂出製油所が閉鎖され、東燃ゼネラル石油が原油処理設備を2系列廃止しました。そして、3月末までにJX日鉱日石エネルギーの室蘭、出光興産の徳山の2製油所が廃止されることで、供給能力の需要とのギャップは大幅に縮小します。これにより、燃料油の国内需要が前年に対して2%程度減少し、前年並みの輸出数量が確保されると仮定すると、14年度の原油処理設備の稼働率は、13年度予想の約80%から、87%程度まで上昇し、製油所の定期修理や石油製品需要の季節変動などの影響を考慮すると、国内の大半の製油所は、ほぼフル稼働状態になる見通しです。

この結果、需要が想定外に大きく落ち込んだり、輸出環境(海外市況)が著しく悪化したりしない限り、石油製品の需給は引き締まり、市況は改善すると予想されます。特に、製油所の定期修理が集中的に行われる5月から6月にかけての時期には供給力がさらに減少しますので、需給が一段と引き締まりやすくなります。精製各社は定期修理の際に事前に必要量を確保しますので、通常は定終時に市況が大きく動くケースはまれですが、今年はその例外になるかもしれません。

問題は好環境がどの程度続くかですが、石油製品の国内需要は、自動車の燃費の改善、産業用分野を中心とした天然ガスシフト、家庭分野の電化シフト、震災後の火力発電燃料需要の反動減などにより、年率2~3%程度のペースで減少すると見込まれますので、輸出の拡大、石化製品へのシフトなどを考慮しても、2年程度で製油所の稼働率は13年度後半並みの水準まで低下すると予想されます。不足分を製品輸入で補うような動きが起きると、2年を待たずに収益環境は悪化してしまう可能性があるのです。

ちなみに、ガソリンの需要は以下の算式である程度見通すことができます。まず、自動車の登録台数はほとんど変化していません。走行距離が大きく変化することもありません。したがって、廃車される車と新規に登録される車の燃費の差だけ平均燃費が改善し、需要が抑制されることになります。入れ替わる車の比率は年間8%程度ですから、仮に燃費の差が30%とすると、30%×8%=2.4%、ガソリンの国内需要は減少することになります。


 

行政指導による再編集約は合理性を阻害しかねない

今年3月に期限を迎える高度化法は、JX日鉱日石エネルギー、出光興産、昭和シェル石油の三社が、高度化法が発表される前に策定・公表していた精製部門の経営合理化計画をベースにしていました。すなわち、高度化法による行政指導で削減された精製設備は、休止状態にあった東燃ゼネラル石油のトッパー2基、同じく長期計画停止されていた富士石油のトッパー、そして、コスモ石油の坂出製油所だけだったのです。ただし、自らの経営合理化計画がベースになっていた三社にとっては、分解能力の向上に向けた数値目標は合理性があったと考えられます。

しかし、要否が問われているポスト高度化法は事情が異なります。現時点で、単独の判断で閉鎖できる製油所を持っているのは、JX日鉱日石エネルギーと東燃ゼネラル石油だけにとどまるからです。JXは、閉鎖可能な製油所を複数抱えていますので、10年単位の期間、需要に合わせて供給力を絞り込むことが可能ですが、他社はそうはいかないでしょう。

業務提携・合併を前提にしても行政指導による再編・集約、精製能力の一律能力削減。あるいは精製設備の高度化は、精製・元売り各社の経営を歪める可能性が高く、国内の石油精製業の競争力強化に必ずしもつながるとは限りません。私は、高度化法と同様のしくみによる産業誘導政策は必要ないと考えています。



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