㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



複数の下げ要因が払しょくされていない原油相場


伊藤 敏憲



年初来の原油価格下落は三つの理由による


NYMEXの原油先物市場のCrude Oil Futures(WTI原油先物)の期近価格の引け値は、1月3日に1バレル63.05ドルの年初来高値をつけてから下落に転じ、3月18日には20.37ドルまで下落しました。NY原油先物の引け値が20ドル台となったのは、1999年8月27日に20.95ドルをつけて以来20年ぶりのことです。


今年に入って原油価格が下落した理由は三つあります。一つ目は、昨年から年明けにかけて原油相場を押し上げた主にイランをめぐる中東情勢の緊迫がやや緩和されたこと。二つ目は、昨年11月に中国の湖北省武漢市で最初の症例が確認された新型コロナウイルス(CDV-19)による重症感染症の流行による影響。そして、三つめは、2017年以降の原油相場を下支えしてきたと考えられる「OPECプラス」の足並みの乱れです。


ちなみに、NY原油先物期近価格は、2か月足らずで相場が急落する局面で用いられる下落前の高値に対する下値のめどを示す相場用語である「半値八掛け二割引(1/2×0.8×0.8=0.32)」に相当する32%の水準まで値下がりしました。経験則は、経験則に基づいて投資判断をする投資家が少なからず存在することから、システム売買が取引の中心となった今の時代においても通用します。相場が高いか安いかの判断は経済性などのファンダメンタルズのみによって判断されるわけではないのです。



新コロナウイルスによる感染症の流行拡大とOPECプラスの足並みの乱れが払しょくされない限り原油相場の低迷が続く公算大


中東情勢の緊張緩和は、1月初旬から下旬にかけてNY原油価格が60ドル台から50ドル台前半に値下がりした理由の一つと考えられます。中東情勢にその後大きな変化はみられませんので、この影響は足元の原油相場にはほぼ織り込まれていると考えられます。


2月以降は新型コロナウイルスによる重症感染症の流行が原油相場に大きな影響を及ぼしました。当初は、感染症の震源地だった中国の景気の悪化や中国との取引の制約が世界経済や原油需要などに与える影響が考慮されていましたが、新型コロナウイルスによる重症感染症の集団発生が世界各地に広がるにつれて、世界経済に及ぼすマイナス影響が拡大するとの見方が広がり、株式市場、コモディティ市場などの相場の下げ要因になりました。新型コロナウイルスによる重症感染症は未だ収束のめどが立っていませんし、世界経済へのマイナス影響、航空燃料、船舶燃料、産業用燃料などの需要減も拡大していますので、当面、原油相場の低迷要因として作用し続けると見込まれます。


石油輸出国機構(OPEC)と非加盟主要産油10カ国からなる「OPECプラス」は、2016年11月に開催された関係各国による合同閣僚会合での「協力宣言」に基づいて2017年1月から協調減産を実施しています。これが2016年12月以降、原油相場を下支えする効果を発揮していたと考えられます。OPECプラスが昨年12月に合意した2020年1月~3月の協調減産幅は2018年秋の生産水準比170万B/D(昨年12月以前の水準に対して50万B/D拡大)でしたが、新型コロナウイルス感染拡大に対応するため、今年2月に開催された専門家会合で60万B/Dの追加減産が必要との提案がなされていました。ところが、3月6日に開催された会合で提案された追加減産と4月以降の減産延長をロシアが拒否したことで、3年余り続いたOPECプラスの協調減産体制が崩壊するとの見方が広がり、原油相場が崩れる原因となりました。その後、サウジアラビアは今年4月~5月に減産を強化すると公表しましたが、新型コロナウイルスによる重症感染症の流行による影響などで原油需要の落ち込みが大きくなる中、ロシアなどの主要産油国がこれに追随するかどうか、OPECプラスが需給調整機能を再び発揮するようになるかどうかなどが、当面の原油相場を左右することになると予想されます。


新型コロナウイルスによる感染症の流行拡大、OPECプラスの足並みの乱れという複数の相場の下げ要因が払しょくされるまで、原油相場は低迷し続けると予想されます。



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